30年間で4割の棚田が消えた

1970年から始まった米の生産調整を行うための農業政策「減反政策」に加え、耕作者の高齢化、担い手不足、また大型の機械が入らないことによる生産性の低さ、山間地特有の日照量不足などによる収穫量の少なさ──これらが大きな原因となり、ここ30年間で4割の棚田が消えたとの報告がある(出典:農林水産省HPより)。

小千谷市冬井地区も全国と同じく棚田の存続が大きな課題だ。棚田は平坦地の水田に比べて「労働力は2倍だが、収穫量は半分程度」と言われている。たしかに“食料の生産”というビジネスの面から見たら、棚田は非生産的であり非効率なのかもしれない。ただ、里山の棚田には食料の生産以外にもたくさんの役割がある。

棚田は、ただ米を生産する場所というだけでなく、自然環境を保全する役割も果たしている。洪水や地すべりを防ぎ、生き物の生態系を守る働きは棚田の多面的な機能だ。棚田で農業を続けることで私たちの生活にもさまざまな恵みを与えてくれている。

大自然の恩恵が酒蔵の大事な財産

そんな多くの機能がある棚田を、手遅れになる前に今あるだけでも何とか守っていかなければならない。それが問題を目の当たりにした時に強く思ったことだった。

棚田の米とそれを作る地域の人、そしてこの素晴らしい風景を未来へ繋ぐために私たちができることは何か──考えた結果、導き出した答えは“お酒造り”だ。

酒造りには良質な米、清らかな水、澄みきった空気などが不可欠であり、大自然の恩恵そのものが酒蔵の大事な財産となる。小千谷市は米どころとして有名な魚沼地域に位置し、清冽な雪解け水や肥沃な土壌は、米作り・酒造りには最適な環境にある。

棚田米100%で仕込む日本酒を造ることで棚田の保全につなげたいと考え、『田友(でんゆう)』と名づけた日本酒でスタートしたのが「田友プロジェクト」だ。

“参加しよう米づくりから酒造り”がスローガンの「田友プロジェクト」
“参加しよう米づくりから酒造り”がスローガンの「田友プロジェクト」

田友プロジェクトは、“参加しよう米づくりから酒造り”をスローガンに、地域の人や弊社だけでなく、一般の消費者たちからも田植えや仕込み体験を通じて、自然環境の大切さ素晴らしさを楽しく学んでもらいながら“田んぼに集う友”の輪を広げる活動。私たちは酒造りを営む会社と生産農家が手を結び、消費者参加の田植えや仕込み体験を通じファンを増やすことで、自然豊かな地域を守ることにも繋がると考えている。

今まで経験したことのないほど出荷量が減少

だが、世界中の人々の生活は新型コロナウイルスの影響で一変した。日本では1月に初の感染者が確認され、日を重ねるごとに感染者の数は多くなり、4月には緊急事態宣言が発令されるほどの事態に陥った。