tonariのもたらす“隣接感”はレイテンシーやフレームレートなど、システムのスペック的な部分だけではなく、ハードウェアの設置方法など、空間上のさまざまな工夫によってもたらされている。

明るいオフィスでも使えるソフトPVC製のグレーのスクリーンには、ほぼ目線の高さに1点、目立たないように穴が開けてある。カメラはこのピンホールの奥に設置されている。スクリーンの向こうの人物と目線が合う体験は、このカメラの設置位置によって実現している。

カメラが撮影した映像は、平らな面で室内が自然に見えるように画像処理され、プロジェクターから投影される。画像処理が行われるので、プロジェクターのハードウェアはスクリーンの中心でなく、目立たない壁際に設置することができる。

集音マイクは天井から下げられた複数のライトに付いている。スピーカーはスクリーンの左右に据え付けられ、スクリーンの前に立ったときに向こうで収録された音(声)が自然に聞こえるようになっている。照明も環境光や時間帯によって調光されており、画面で見たときに顔の明るさと背景の光の加減が同じぐらいになるように調整されている。

緊張感や臨場感を構成する要素が何なのかは、引き続きtonariの開発チームで調査が行われている。映像、サイズ感などさまざまなエレメントが関係するので「使ってみないと分からないこともある」とのことだが、分かっていることのひとつに「人間は自分の顔に敏感なので、画面に自分が映っていると気が取られる」ということがあるそうだ。そこでtonariでは一般的なウェブ会議のツールとは異なり、目の前のスクリーンには自分は映らないようになっている。またプレゼンテーションなどの資料共有用のモニターは、あえてスクリーンの脇に別に設置されている。

tonariの渋谷オフィスと葉山研究所とは、常にtonariがオンの状態になっている。スクリーンの前で打ち合わせをしていても、相手の後ろで誰かが入室したことが分かるので、スクリーン越しに「おかえり」「ただいま」のやり取りが発生することもある。こうした体験によって、より“同じ空間でつながっている感覚”になるそうだ。

Googleでの経験から空間を“ハック”するプロジェクトが誕生

日本語の「隣」をプロダクト名に採用するtonariは、元Googleのプロダクトマネジャー、タージ・キャンベル氏とエンジニアの川口良氏の両名を代表として、2017年に創業した“ソーシャルベンチャー”だ。