松尾研メンバー中心に創業、AI技術の社会実装
ACESは松尾研の博士課程に在籍中の田村浩一郎氏(同社CEO)を中心に、6人のメンバーが集まって立ち上げられた。
創業メンバーの6人中5人はエンジニアとしてのバックグラウンドを持ち、さらにそのうち3人は松尾研の出身。AI領域の知見や技術力は同社の大きな特徴で、田村氏自身も起業する前から研究室を通じて複数の企業との共同研究プロジェクトに携わってきた。
特にACESが得意とするのが人間の行動や感情を検知・解析する“ヒューマンセンシング技術”にまつわる領域だ。たとえば電通など数社とは「野球選手の身体情報」を定量化し、選手の特徴分析や怪我の原因特定につなげられる仕組みの研究に取り組む。
具体的には姿勢推定技術・行動認識技術を用いて、カメラで撮影した映像から選手の身体情報を抽出。そのデータを分析し、従来は“センス”で片付けられていた身体の細かい位置や角度、速度情報などを定量化するアプリケーション「Deep Nine」を開発した。
同システムはフォームや球種ごとの選手の特徴を把握したり、身体動作とパフォーマンスとの相関を分析してトレーニングの参考にしたりできるほか、怪我の原因特定や予防にも使える。まさにそのような目的から国内のプロ野球球団にも導入された。
テレビ東京やZoffなどの企業とはリアル産業における業務のデジタル化を進める。テレビ東京とのプロジェクトでは報道現場のDXに向けて、AIを活用したプレスリリース情報のデジタル化アプリケーションを開発。すでに報道局内での実運用が始まっている。
このアプリケーションを通じて従来は紙によるアナログな方法で管理されていた膨大なプレスリリースの情報を、OCRや構造化処理技術を用いてデジタル情報として一元管理できる仕組みを構築。誰もが簡単にリリース情報にアクセスできるようになったことで、確認作業や振り分け作業の削減、リサーチ時間の短縮などにつながった。
8月に業務提携を実施したインターメスティックとは同社が展開するメガネブランド・Zoffの現場において、小売業界のDXに向けた研究開発をスタート。ヒューマンセンシング技術を基にエキスパート店員の接客を再現する試みなどを行っているという。
カギはアルゴリズムのモジュール管理とパッケージ化
上述したような案件を中心に、ACESでは「共同DX事業」を通じて、AIを活用したプロジェクトの設計からアルゴリズムの開発、導入、活用までを一気通貫でサポートしてきた。
近年は「Po死」という刺激的な言葉が使われることもあるように、AIプロジェクトの中には焼畑農業のような形でとりあえずPoC(概念実証)を実施し、そのまま終わってしまうケースも珍しくない。ただACESの場合はこれまで携わってきた20件以上の案件のうち、PoCで終了したものは1つもないという。