田村氏の話では顧客の課題や業界の構造を深く掘り下げながら「バリューチェーンやサプライチェーンのどの部分にアルゴリズムを組み込んでいくべきか」をひもといていくことで、高い継続率を維持できているという。

「もちろん技術力やディープラーニングに関する専門性も大きな強みですが、PoCで終わらせないために、価値を出すことにこだわってきました。重要なのは業界を深く理解した上で、人の認知処理や作業が必要とされている節目を見極めること。人がやっても価値が出る業務でなければ、ディープラーニングを用いてデジタル化したところで価値はありません。その上でディープラーニングの方が得意なところ、人よりも上手くできるところを見分けられるかがポイントです」(田村氏)

共同DX事業がACESの成長の源泉であることは間違いなく、今後も継続していく計画に変わりはない。一方で典型的な受託開発のモデルになってしまうと「どうしても人月ビジネスになりがち」なことがネックになる。

そこで同社はスタートアップとして“指数関数的な成長”を達成するべく、初期から「アルゴリズムのモジュール管理」を徹底し、人月に制約されないスケーラブルな体制作りをめざしてきた。

主に顧客との共同研究を担当するエンジニアと、コアとなるアルゴリズムの研究開発を担うエンジニアで役割を分担。競争力に繋がるアルゴリズムの研究開発にしっかりと時間を注げる体制を整備するとともに、開発したアルゴリズムを横展開できるようにモジュールとして整理する。

秘匿性の高い顧客データの管理などには十分に配慮した上で、あるプロジェクトで培ってきたアルゴリズムを同じ課題を抱える新たな顧客にもライセンスとして提供できれば、過去の資産を活かしてスピーディーに事業を進めることもできる。

「プロジェクトを積み重ねるごとに、無形資産が社内に蓄積される。それをアルゴリズムライセンスとしてさまざまな企業の課題解決に繋げていくという構想が、徐々に形になり始めてきました」(田村氏)

画像・映像認識アルゴリズム「SHARON」はまさにその一例だ。人物の特定や姿勢の推定、表情認識、物体検出などさまざまな用途で使えるアルゴリズムをAPI/SDKサービスとして切り出し、顧客に開放している。

「SHARON」では最先端の学習済みAIアルゴリズムをAPI/SDKサービスとして提供する
「SHARON」では最先端の学習済みAIアルゴリズムをAPI/SDKサービスとして提供する

また上述した姿勢推定アプリケーション・Deep Nineのように、蓄積してきた知見やアルゴリズムを特定の領域に特化したバーティカルSaaSとして、外部提供する取り組みも始めた。