買収価格の折り合いをいかにつけるかが
最大の関門

 そして5番目の問題ですが、これだけ問題が多い、言い換えると難易度が高いM&A(企業の合併・買収)案件ですから、買収価格はある程度低く抑えなければ経済的に採算が合わない可能性があります。

 この買収案件は、すべてがうまくいけば伊藤忠商事がモビリティー事業の川上であるガソリンなどのエネルギー事業から、川下の自動車販売へと進出するチャンスとなります。同時に最初から業界最大規模の営業資産を手に入れて、結果としてモビリティー事業のバリューチェーンを一気に拡大できる可能性のある案件です。成功すれば当然、大きなリターンがあります。

 一方で、もし問題がクリアできなければ伊藤忠は今後長期間にわたって負の資産と向き合って、だらだらと損失を垂れ流し続けることになる。そのリスクを勘案すれば、買収価格は企業価値よりもかなり低く抑える必要があるはずです。

 そのためには創業家側の苦境を測ったうえで、売りたくなるタイミングを見極める作戦が必要かもしれません。

 オリックスが直面したように、ビッグモーターの創業家側には「売らない」という切り札があります。さらに「ビッグモーターの事業自体には、伊藤忠以外の候補にとってもそれを欲しいという魅力がある」ことも創業家は知っているのです。

 このように五つの問題を整理してみると、伊藤忠にとってはこの買収案件、容易ならざる案件になりそうです。

 とはいえこのままで進んでいけば、ビッグモーターの企業価値は徐々に失われていくことも確かな話。どこかで折り合いがつくのかどうか、ディール(取引)はこの先数カ月かけて出口を模索することになりそうです。