渋沢栄一と協力

 高峰は、漢方医だった父と、造り酒屋の出身だった母のもとに生まれた。麹菌の抽出物から薬をつくるという発想には、こうしたルーツがあったのだ。

 高峰の功績はまだある。東京の工部大学校(のちの東京大学工学部)で化学を専攻し、首席で卒業した高峰は、留学先のイギリスで最先端の科学技術に触れ、化学肥料の有用性を思い知った。

 当時、日本で重要な肥料として用いられていたのは、人の糞尿であった。いずれ人口の増加に伴い、食糧の増産が必須になる。

 十九世紀前半にイギリスで生まれた人工的な化学肥料は、当時リン鉱石から効率的に生成されていた。

 高峰はこの技術を日本に持ち帰り、一八八七年に実業家、渋沢栄一らの協力を得て、日本初の化学肥料製造会社「東京人造肥料会社」を創業する。のちの日産化学株式会社である。

 このように高峰は、化学を次々と実用に生かして事業化し、化学の力でこの国を変えてきた。その功績から彼は、「近代バイオテクノロジーの父」と呼ばれているのだ。

【参考文献】
(1)高峰譲吉博士研究会「世界初、アドレナリンの抽出結晶化」
 https://npo-takamine.org/who_is_takaminejokichi/scientist_inventor/adrenaline/)
(2)“流出頭脳がアドレナリンを結晶化 高峰譲吉を支えた上中啓三の渡米”石田三雄.近創史.2009;7:25-37.
(3)第一三共株式会社「今も脈々と受け継がれるDNA。三共株式会社初代社長高峰譲吉のイノベーションへの熱い想い」  
 https://www.daiichisankyo.co.jp/our_stories/detail/index_6808.html
(4)高峰譲吉博士研究会「タカジアスターゼの発明と三共商店」
 https://npo-takamine.org/who_is_takaminejokichi/scientist_inventor/takadiastase/

(本原稿は、山本健人著すばらしい医学を抜粋、編集したものです)

山本健人(やまもと・たけひと)

2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は1000万超のページビューを記録。時事メディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー約10万人。著書に18万部のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)、『もったいない患者対応』(じほう)、新刊に『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)ほか多数。
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