「黒川元検事長の定年延長」問題で
特捜の恨みが増幅?

 結果的には発覚したが、「森友学園」「加計学園」「桜を見る会」をはじめとする問題も、証拠の隠蔽・改ざん・虚偽答弁が繰り返され、全容解明までに時間を要した。その裏側でも菅氏が暗躍していたことは想像に難くない。

 そうした安倍内閣における「権力の私的乱用」のうち特に問題だといえるのが、20年1月31日に下された「黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年を6カ月延長する閣議決定」だ。この黒川氏も、菅氏に近かったとされる。

 当時、「桜を見る会」について、高級ホテルで行われた前夜祭の会費が不当に安価だったことなど、不審な点が次々と判明していた(第266回)。河井克行元法相・河井案里参院議員による、19年の参院選広島選挙区を巡る「大規模買収」疑惑も深まっていた(後に、共に逮捕・有罪)。河井案里氏の参院選擁立も、菅氏が強引な形で進めたものだった。

 黒川東京高検検事長の定年延長は、これらのスキャンダルを抑え込むために、安倍内閣が強引に進めたものだとみられる。

 しかし結局、“賭けマージャン疑惑”で黒川氏は東京高検検事長を辞任(20年5月)。同年9月には安倍氏が首相を退陣した(第252回)。その後首相となり、立場が変わった菅氏は、「桜を見る会」問題に関して特捜が安倍事務所の事情聴取に入っても、官房長官時代のように抑え込むことはできなかった(第260回)。

 そうした経緯もあり、安倍氏がこの世を去った今、特捜は再び自由に動ける状況となった。今回の「安倍派パーティー券問題」においても、安倍派をターゲットにして徹底的な疑惑追及を行う可能性が高い。それはかつて、息のかかった人物を東京高検検事長に残そうとするなど、人事にまで介入してきた安倍政権への“復讐”のようにもみえる。