キックバックを懐に入れる政治家を
国民が信頼するはずがない

「桜を見る会」の狂騒と同じように、安倍派が政治資金パーティーを開けば、多くの組織、団体、個人がつながりを持って利益を得ようと寄ってくる。予定以上の資金が集まると、内輪で分け合うことも可能となる。

 その誘惑に負けて、資金を自らの懐に入れる――。横領だと断罪されても仕方がない行為だが、安倍派議員には「誰も権力に逆らって告発できない」というおごりがあったのだろう。そのおごりを、今の特捜は許さないのではないだろうか。

 筆者はかねがね、政治家はおごらず、謙虚でなければならないと主張してきた(第176回)。政治家が国民の信頼を失うと、国家が本当の危機に陥ったときに指導力を振るうことができず、国益を損ねてしまうからだ。特に「有事」の際に、政治家が国民に信頼されないならば、国家の危機を招くことになる。

 端的に言えば、台湾有事や北朝鮮のミサイル開発の危機にさらされる日本では、岸田首相が防衛費を増額し、安全保障体制を構築しようとしてきた(第320回)。だがあきれたことに、保守派として安全保障体制の充実に取り組んできたはずの安倍派がスキャンダルにまみれている。その状況下で、誰が自民党による安全保障政策を支持するのだろうか。

 政治家は強い権力を持つからこそ、何をしても許されるものではない。その扱いには慎重であるべきだ。パーティー券収入のキックバックを自らの懐に入れる政治家たちが立案した政策に、国民が耳を傾けるはずがない。

 厳しい状況下に置かれた岸田首相は、自ら岸田派(宏池会)を離脱し、派閥会長も退くことを表明した。「ピント外れ」との批判もあるが、少しでも国民からの信頼を回復しようと苦慮した末の決断なのだろう。その岸田首相には、安倍派幹部「5人衆」が去った要職の後釜に、権力を笠に着て金銭を得ようとしない「謙虚な人物」を据えることを望みたい。