空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「あらゆる人におすすめしたい。壮大なスケールで「知的好奇心」を満たしてくれる素敵な本だ」、鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されている。今回は、気象予報士の津田紗矢佳氏の原稿を特別に掲載します。

【出張や帰省の飛行機で景色を楽しむならどの座席?】「見ると幸せになれる」と言われる“虹色の光の環”と出会う方法Photo: Adobe Stock

移動しながら美しい空を楽しむ

 新型コロナの位置づけが5類感染症に移行され、さまざまな制限が緩和されました。

 ビジネスパーソンたちの国内外への出張も、徐々に増えてきています。出張時の移動手段として飛行機を利用する場合、窓側席の予約がお勧めです。

 飛行機だからこそ見られる景色が窓の外に広がっており、移動しながら美しい空を楽しめるからです。

空の青さの違い

 まずは飛行機から見える、日中の空の色に注目です。フライト中に窓をのぞくと、高い空と低い空で空の青さに違いがあることがわかります。

 高い空ほど深い青に染まり、地上近くでは白っぽくなっているのです。この青さの違いは、太陽光がカギを握っています。

 太陽光のうち、私たちの目で見える光は「可視光線」と呼ばれます。可視光線は波長の短いものから順に紫・青・緑・黄・橙・赤と複数の色の光が混ざっており、波長より小さなものにぶつかると、波長の短い光ほど強く散乱する「レイリー散乱」が起こります。

 日中の空では、可視光線の波長よりも小さい空気分子や大気中に存在する微小なチリによって、波長の短い紫や青の光ほど空で強く散らばっています。

 紫の光は空のかなり高いところで散らばり切ってしまい、私たちの目には届きません。このため、紫の次に波長の短い青の光が散乱されて空に広がり、日中の空は青く見えるのです。

 一方、地上近くでは水蒸気やチリが多く、青以外の光も散乱されています。光は色が混ざるほど白く見えるため、地上付近の空は白っぽくなっているのです。

 空高くを飛ぶ飛行機からは遠くまで見通せるため、地上にいる時よりも空の色の違いがわかりやすいです。眼前に広がる青空のグラデーションに、忙しく日々を過ごす気持ちも洗われるのではないでしょうか。

【出張や帰省の飛行機で景色を楽しむならどの座席?】「見ると幸せになれる」と言われる“虹色の光の環”と出会う方法高い空ほど深い青に染まる。(写真:津田紗矢佳)

虹色の光の環と出会う方法

 飛行機から見られる美しい現象の中で、私が最も推しているのは「ブロッケン現象」です。

 地上ではなかなか出会えませんが、フライト中は容易に出会える美しい現象だからです。ブロッケン現象は、雲に映った飛行機の影のまわりに虹色の光の環が現れるもので、正式には「光輪(グローリー)」といいます。

 飛行機の影ができる場所に、水の粒でできた雲がある場合、可視光線が水の粒を回り込む「回折」という現象が起こります。光の色の違いによって回折で折れ曲がる度合いが異なるため、影を中心にして紫から赤まで光の色が分かれ、虹色の環となるのです。

【出張や帰省の飛行機で景色を楽しむならどの座席?】「見ると幸せになれる」と言われる“虹色の光の環”と出会う方法ブロッケン現象。2022年7月の午前中、羽田から秋田へ向かう際、太陽と反対側にあたる進行方向左側の窓側席から。(写真:津田紗矢佳)

 ブロッケン現象を見るために必要なのは、飛行機の下に積雲(綿雲)や層積雲(くもり雲)など、水の粒でできた雲が存在すること。そして、飛行機の影が見えるよう太陽と反対側の窓側席を予約することです。

 朝や夕方は太陽高度が低く、飛行機の横方向に飛行機の影とそれを取り囲む虹色の光の環が現れるため、容易にブロッケン現象に出会えます。

 太陽高度の高い昼でも、窓の下をのぞき込めば出会えることもありますし、離着陸などで飛行機が旋回して機体が傾けば、低い空の雲に虹色の光の環を見つけることができます。

 ブロッケン現象は「見ると幸せになれる」とも言われています。往路で出会えると、出張先でパフォーマンスが向上する後押しになるかもしれません。

 飛行機からは、空にいるからこその美しい景色が見られます。次の出張の際は、ぜひ窓側席で非日常の体験を味わってください。

(本原稿は、荒木健太郎著『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容と関連した、ダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)

津田紗矢佳(つだ・さやか)
気象翻訳者。気象予報士・防災士。1987年生まれ、山口県出身。上智大学文学部英文学科卒業。大手法律事務所で渉外秘書として勤務したのち、2016年に気象予報士資格を取得。現在はウェザーマップに所属し、テレビ朝日「日曜スーパーJチャンネル」気象キャスター、テレビ朝日気象デスク、あきたいざたんアンバサダーリーダーを務める。Yahoo!天気・災害動画出演中。防災・減災のために、天気や防災をわかりやすく伝える気象の翻訳者として、執筆・講演・出演などの活動を行っている。著書に『天気を知って備える防災雲図鑑』(文溪堂)、『空を見るのが楽しくなる!雲のしくみ』(誠文堂新光社)がある。
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