「感情を殺す人と感情コントロールをする人は違います」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
「感情を殺す」と「感情のコントロール」は
どんな人でも、感情と理性があります。
その両方が、シーソーに乗っているように、頭のなかでバランスをとっています。
どちらかにずっと偏っていることはなく、常にお互いを行ったり来たりしているのです。
ということは、誰しもが「理性的になる瞬間」というのが訪れるのも確かなのです。
その瞬間の自分をつかまえて、どのように考えればいいのか、どういうステップを踏めばいいのかが大事です。
今あなたが、こうやって文章を読んでいる時間は、特に「理性」が働いていると思います。
理性が優位になっている隙に、どうか実践してもらいたいんですよね。
ということで、「感情のコントロール」について、ここで理解を深めてもらおうと思います。
理性と感情は、チグハグになることがあります。
たとえば、子どもの頃、好きな子に意地悪をしたことがないでしょうか。
前から気になっていた子に急に話しかけられて、つい無視をしてしまったり、意地悪なことをしてしまったという経験は、誰にでもあると思います。
考えてみれば不思議な話です。
好きであるなら、自分から近づいて行って、「遊ぼうよ」と言えばいい話です。
どうして矛盾した行動をとってしまうのでしょうか。
そこには、「羞恥心」と「恐怖心」という2つの感情が関わっています。
「好きだということが周りにバレるのと恥ずかしい」(羞恥心)
「陰で噂話をされたり、相手から拒絶されるのが怖い」(恐怖心)
そんな感情によって、私たちの行動は簡単に左右されてしまいます。
子どもの頃は特に自分の感情に対処できず、しばしば極端な行動を取ってしまうのです。
大好きな母親のことを「嫌い」と言ったり、イタズラをして怒られてもつい繰り返してしまったり、チグハグな行動に出てしまいます。
そのとき、子どもは、あえて間違ったことをして、親のリアクションを観察したり、ルールを破るとどうなるかを知ることで、社会に馴染んでいくための「社交性」を学んでいるのです。
そうやって、社会のルールや人の感情を学びます。
しかし、成長のための失敗体験によって、ネガティブな「ハラ落ち体験」をしてしまうと、厄介な考え方のクセがついてしまうことがあります。
自分の感情と反対の行動をすることに慣れてしまい、自分の感情に嘘をつくことがクセになることがあるのです。
「ストレスの有無」で決めればいい
そもそも、人間が社会で生きるためには、感情に抗う瞬間が訪れます。
「今日は落ち込んでいるけど、明るく振る舞わなきゃいけない」
「本当は好きじゃないけど、仲良くしなきゃ気まずくなる」
「母親を安心させるために、あえて不安な気持ちを隠す」
「周りの人に合わせるために、他人の悪口を言ってしまった」……
そうやって、自分の感情を押し殺す瞬間が誰にでもあると思います。
それは処世術として、あなたが新しい脳を成長させて身につけた、人生を生き抜くための技術です。
「感情を押し殺したほうがラクなんだ」
そう思うことは、前項で述べたように、応急処置として必要なことです。
その行動をとったことは、どうか自分で褒めてください。
「ストレスをしのぐことができた」と評価していいんです。
では、何が問題になるのでしょうか。
それは、感情を押し殺すことを続けてしまうことです。そうしてしまうと、ずっと無理をしている状態になり、逆にストレスが生じてしまうのです。
一時的にしのぐのではなく、それが慢性的な「生き方」になってしまうと、つらくなってきます。
精神医学的にも、自分を押し殺したまま生きることは、想像以上に身体に悪いことがわかっています。
ストレスは人間の身体にも、さまざまな形で影響を与えます。
たとえば、「ストレスで胃潰瘍になった」「頭髪が薄くなった」という話は聞いたことがあると思います。
ジョンズ・ホプキンス大学の研究では、人間は慢性的なストレスによって、ストレスホルモンとも呼ばれる「コルチゾール」が身体の中で増えすぎてしまい、記憶力や洞察力が低下し、脳が萎縮してしまうことが明らかにされています。
さらに、コルチゾールが増え続けると、高血圧や心臓病、肥満、うつ病を引き起こしてしまうこともわかっています。
「我慢は体によくない」ということは当たり前のように言われます。
感情を押し殺す状態を「続けてしまう」ということは、やめるべきです。
感情を「一時的にコントロールすること」と「慢性的に押し殺してしまうこと」は別なのです。
その使い分けをハッキリと理解してください。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。