前田 はい、中国のライブ配信だと特に、プロダクト側もユーザーを王様に見立てた言葉づかいをしています。お金をたくさん使う人が王様、という世界観です。ユーザーである演者も親しみやリスペクトを持って王様を崇め、王様が部屋に入ってくると「王様が来た!」と言って、みんながひれ伏す、というような。

 ただ、これは日本では恐らく成立しにくくて、日本でもし同じような人がいたら「あいつは金で何とでもなると思っている」というクレームが殺到することが想像できます。

徳力 かなりの確率で、そうなりそうですね(笑)。

前田 ただ、それらの現象もさらに抽象化すれば、日本も中国も「寂しさを埋める」という点では同じだと思いました。中国のユーザーがなぜ「王様になりたい」のかと言えば、中国では一人っ子政策の影響もあり、同世代の女性が周辺にいない独身男性が急激に増えて彼らが寂しさを抱えていた、という社会背景の分析もありました。

 ある世代の中国人は、高級ブランドを現実世界の友だちに自慢することで寂しさを埋める、という構造もあったかと思いますが、ソーシャルメディアに接続した現代では、シンプルに言うと、「オンライン上で自慢」するようになったのかもしれません。

 面白いことに、ポルシェなどの高級車を現実世界のものではなく、インターネット上のプラットフォームのものを買うんです。値段も500万円くらいするんですが、物理的に乗れるわけでもないのに、平気で購入する。

利己から利他へ 「87世代」の経営者に聞く行動原理、SHOWROOM前田裕二徳力氏(左)と前田氏(右) 提供:Agenda note

徳力 本当ですか。それはインターネット上の部屋に飾るオプションか何かですか。

前田 はい。ライブ配信をしている部屋に入るときに車が表示されるんですよ。

徳力 面白いな・・・。ただ、前田さんは、そういった仕組みは今の日本の文化にはハマらないと考えたから、そのまま持ち込みはしなかったんですよね。私のような、いわゆる昭和の世代はお金を持っていることが成功の証だったという面もあって、中国の考え方も何となく分かるんですが、今の若い世代とは何が違うんでしょう。

前田 2つあります。1つ目の大きな違いとしては、少し前の世代の行動原理が一定、「利己」に寄っていたことではないでしょうか。お金や物質的な幸せに対して心から渇望するし、それを表にも出す。この時代はこれが格好良かった。僕らの世代は、その揺り戻しで、「自分がお金など物理的に満たされていることで認められたい」と思うことを、少し格好悪く感じるのかもしれません。

徳力 なるほど、揺り戻し論ですね。