変化する消費者の「価値観」

前田 恐らく、前の世代と同じことをやってもかっこよくない、という価値観なのかなと思います。もしかしたら逆に前の世代が「利他」ベースで行動を起こしていたら、僕らの世代はもっと利己に寄っていたのかもしれません。

 2つめの違いは、そもそもの社会趨勢として、現代社会において飢えるのがどんどん難しくなってきている、ということです。IT評論家の尾原和啓さんが著書『モチベーション革命』で「乾けない世代」と表現されているように、高級ワインを飲むよりもファミレスで200円くらいのワインをみんなでワイワイ飲みながら喋っている方が楽しい世代がいる。

 社会が豊かになってコンビニのワインもファーストフードも美味しくなり、シェアリングエコノミーで衣食住の衣も住もお金が掛からなくなった。自分のためにお金を使うパートがない、という感覚があるのかもしれません。

徳力 その感覚は分かります。

前田 とは言え、僕は小さい頃に飢えていたタイプなんで、そのマイナスエネルギーを極端に利他に振っているのかなと思います。自分が投資銀行というある種利己の塊のような世界にいた影響が大きいと思います。

徳力 そこがすごく意外なんですよ。前田さんのような投資銀行出身の人は、言い方は失礼かもしれませんが、自分の金銭的成功を重視している人が多い印象で、月収1億円など金銭的価値を重視しがちな気がします。前田さんはなぜ真逆に振れたのでしょうか。

前田 たしかに、そういう道もあったのかもしれません。25歳のときに、自分の中で30歳のときの目標として掲げていた経済的な豊かさを達成したのに、思っていたような幸せがそこにはなくて「あれ、おかしいな」と思ったことがありました。

 年収が2倍になれば、幸福度も2倍になると思っていたのに、給料が増えるごとに、増える幸せの量が逓減していくのを感じたんです。お金に苦労した分、お金を稼ぐことこそ幸せをもたらすんだと思って生きてきたから、これから何を目指していけばいいのかと、呆然としてしまいました。

 そんな頃、自分の幼少期にギターをくれた知人のお兄ちゃんが亡くなる、ということがあった。それをきっかけに、自分がいつでも死んでしまう前提で、キャリアをデザインしていくことにしました。そうすると必然的に、自分が心から全力で熱中できて、自分以外では代替不可能であろうことに集中したいと思えたんです。それが起業でした。