それよりもビジネスとしてインターネットを活用している会社がないかと探したとき、SBIホールディングスに目が行きました。何しろ、証券会社にインターネット取引を持ってきたのは、ある意味で革命じゃないですか。電話の交換台で受け付けていた取引をインターネットで代替すれば、手数料が下がるのは当たり前。これがインターネットの使い方として圧倒的に正しいやり方だと思って、入社することにしました。

徳力 石川さんがビジネスとしてインターネットに目をつけたのは、なぜだったんでしょうか。

石川 結局、楽がしたいんですよね(笑)。学生のときも勉強は好きではなかったけれど、要領だけ良くて、いかに短時間で頭を疲れさせずにテストで点を獲るかを考えていました。

 そういう意味では、楽ができるポジショニングに対する嗅覚だけはあるのかもしれません。「ここだけ押さえてれば80点取れる」の「ここ」がインターネットだったんです。

デジタル全盛期に、ディノス・セシールを選んだ理由

徳力 僕が石川さんのキャリアで一番おもしろいなと思ったのは、一度社長を経験された後に、再び大企業であるディノス・セシール に入社されていることです。

 他のインターネットの起業家を見ても、社長を経験した後にもう一度大企業に入ろうという人は少ないと思っています。

石川 いえ、私の場合はもとから「社長になりたい」という発想はなくて。TUKURUで社長になったのは、当時の株主から「やってくれ」という要請を受けていろいろと話した末に、たしかに私がやった方が合理的だと思ったからなんです。

 だから、当時から社長を続けたいとは思っていなくて、もっとうまくやってくれる人が出た瞬間に代わりたいと思っていました。

徳力 自分の事業を始めて、それを大きくするということに興味があるわけではないんですかね。石川さんは、他の人と興味の位置がちょっと違う気がします。

腕利きマーケター、ディノス・セシールの石川森生が語る「キャリアのターニングポイント」石川森生氏(右) 提供:Agenda note

石川 そうですね、仕事自体が目的にはならないですね。例えば、今だったら子どもとの時間をどう過ごすかが大事だったり。

「仕事について、どう思いますか」とよく聞かれますけど、仕事はご飯を食べることや寝ることとほぼ同じで、働かないと死ぬから働かざるを得ないという感覚です。

 でも、せっかくご飯を食べるのなら、おいしいものを好きな人と食べたいし、どうせ寝るなら良い環境で寝たいですよね。それと一緒で、どうせ働くならおもしろいことや、誰かが喜ぶことをしたいと思っているんです。

徳力 それ、個人的にすごく重要だと思うんです。私たち“昭和世代”が今の発言だけを聞くと、古い言葉で言うと「5時まで男」に聞こえるんです。