人が能動的にアプリをダウンロードして機能を設定するのはハードルが高い。行動経済学の「デフォルト」に関する有名な例え話では、臓器移植のドナーをめぐる話がある。臓器提供の意思表示について「同意する」を能動的に選択する国では、同意率が10%ほどにとどまるのに対して、移植しない場合に「同意しない」と申告する必要がある国では、同意率が実に90%ほどにのぼっている。

 たとえ無料で使えるとしても、ユーザーが「面倒さ」の壁を乗り越える必要があるという点は普及の妨げになりそうだ。利用を法律で強制することもなく、言い換えればユーザーの善意の協力に頼るような設計となっている。ただし、運用次第では「アプリで通知された人が優先してPCR検査を受けられる」といったインセンティブが働くかもしれない。

 竹村直一 IT政策担当大臣は5月26日の記者会見で「せめて6割ぐらいは、あるいは8割の人に使ってもらえれば理想だ」と言及。そのためにプライバシー保護を重視した設計としたと説明している。接触確認アプリが実際にどれだけの効果を発揮するかは、政府・厚労省による啓発活動の効果と、日本人のITリテラシーが試されるところになろう。