具体的な改善点として濱渦氏は「そもそも受付は要るのか。わざわざ並んでチェックインする必要がなくなれば、場所や人の無駄もなくなるし、宿泊客もうれしいはず」と例を挙げる。

NOT A HOTELのコンセプトを踏襲したという濱渦氏の自宅リビング Photo by N.H.NOT A HOTELのコンセプトを踏襲したという濱渦氏の自宅リビング Photo by N.H.

 またホテルの予約のほとんどは現在、自社サイトからではなくOTA(旅行予約サイト)を経由していると濱渦氏。

「ホテルの利益率は10%程度なのに、OTAで売り上げの15%が手数料として取られている。これをD2Cの自社直販に切り替えられれば、コストも下げられる」(濱渦氏)

 新型コロナウイルスによる影響も、濱渦氏は好機と捉えている。

「星野リゾートが、スマホで大浴場の混雑状況を確認できるサービスを始めるなど、業界全体がITの可能性に気づき始め、導入を進めようと考え始めている。この業界に入るなら今だ。ホテルはもっと変えられる」(濱渦氏)

 濱渦氏がホテル業界に参入する理由はもうひとつある。ZOZO創業者・前澤友作氏から受けた影響だ。

「前澤さんはビジネスを楽しんでやる人で、『好きなことをやれ』と常々聞かされた。マーケットの可能性のほかに、一生続けられる仕事として、旅行・ホテルが好きだったから、この領域を選んだ」(濱渦氏)

チェックインは無人、ボットが
レストラン予約など「旅の提案」も

 NOT A HOTELでは、フラッグシップモデルとなるホテルの開発を宮崎県・青島で行ってはいるが、基本的には自社ではアセットを持たない形でブランド展開を図ろうとしている。そこで同社が提供するのは「テクノロジー」「ブランディング」「オペレーション」の3つの価値だ。

NOT A HOTELが提供する3つの価値 提供:NOT A HOTELNOT A HOTELが提供する3つの価値 提供:NOT A HOTEL
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 特にテクノロジー面では、無人チェックインシステムやIoTシステムの導入で、徹底した無人化を進める。

「小さい旅館では泊まる人より働く人の方が多いこともよくある。しかも『チェックアウトは何時だったか?』『ドライヤーが欲しい』といった同じ質問に『11時チェックアウトです』『ドライヤーは洗面台脇の戸棚にあります』と同じ答えを返すために、フロントに24時間誰かが待機するようなことが起こっている。これでは働く人の負担にもなるし、人件費もかかる。こういった対応は全てチャットボットが行えることだ」(濱渦氏)

 また予約でOTAを経由しないのはもちろん、予約システムからチェックイン時の本人確認、部屋の操作、精算システムまでが全て搭載された、NOT A HOTEL用のアプリが開発されている。同ブランドのホテルではどこでも、このアプリが使えることになる。

「ユーザーが好みの室温・湿度、香りなどをアプリで設定しておけば、その通りに部屋が準備された状態でチェックインできる。またアレルギーの有無など、今までのホテルでは毎回聞かれていたようなことも、事前に共有された状態になる。レストランの予約やレンタカーの予約など、滞在中の旅の提案もボットがやってくれる。予約時点の『タビマエ』から鍵を受け取った後の『タビナカ』『タビアト』まで、シームレスに体験がつながるようにと考えている」(濱渦氏)