僕の中で、ある程度の離職率は想定の範囲内でした。確かに日本のサイボウズでは、離職率が28%から4%にまで大幅に改善しました(厚生労働省「平成28年雇用動向調査」によれば、常用労働者の離職率は平均15%)。しかし米国法人では、初年度57%の離職率。

 なぜかというと、立ち上げ時はどうしてもハードワークになってしまう。新卒レベルの人材を入れ、理念を語って、カルチャーを作ったとしても事業として考えると、今日のメシや明日のメシが食えない、となります。成長のためには、「全く(カルチャーに)共感していない人」はさすがに採用できないけれども、「ある程度の共感とある程度の実行力がある人」を優先して採用していくことになります。

 採用の時に「この子は(サイボウズの)カルチャーに合っていない、でも仕事はしてくれそうだ」と理解して採用している。そうする中で、その子が何かネガティブなことを言った時に、残す方向なのか、そうじゃないのかを考える時間ができる。その間によりカルチャーフィットする人を採用し続ける、そういうことです。

――西海岸のエンジニアは特に流動性や成長志向が高いと聞きますが、相性はどうでしょうか。

 たしかに辞めるときはスパッと辞めるだろう、とは思っていました。ですが、「1年で57%は思ったよりも辞めるのね。はやっ」というのは正直あった(笑)。

 しかし、彼らはそんなにびっくりするような理由では辞めないんです。シリコンバレーはエンジニアの人件費が高いので、弊社が採用する半数はエントリーレベルのエンジニア。それでも優秀であればすぐに業務をキャッチアップします。

 キャリアのある中途採用のエンジニアが辞めるのはわかるけど、エントリーレベルのエンジニアが1年で「給料1.5倍にしてくれ」といった交渉をしてきます。優秀な子ほど「キャリアを積まないといけない」という意識が強いので、採用すればするほど抜ける。LyftやAmazonから内定もらったらそりゃ抜けますよね。

――そんな環境でどうやって優秀な人材を確保しているのでしょうか。

 僕ら、シリコンバレーでは不利なところもあるんですよ。見方によっては日本の出店(でみせ)で、完全なスタートアップじゃない。「ベンチャーなのにやりたいこともやれない、単に待遇の悪い小さい会社じゃないか」と現地で言われかねません。

 だからこそ、権限移譲という意味でも僕がいるのです。「(日本のサイボウズの)副社長がここにいるという意味を考えてほしい。やはり僕らの理念というのは「チームワーク」です。本来は理想に共感してくれることが大切で、多様な個性を尊重し、自立して議論をしていきたい。サイボウズのチームワークあふれる社会を世界に作りたい、そういう会社をここでつくりたい」――そういう話をするようにしています。