当時は米国にグループウェアを売りに行っていました。日本ではMS(Microsoft )のExchangeやLotus Notesといったグループウェアがそれなりに流行していた時期です。国内ではそういった競合のシェアを抜いていっていたから「米国でもいけるのではないか」と。ところがいざ行ってみると日本とは状況が違っており、米国のMSはめちゃくちゃ強かった。

 カルチャーもフィットしませんでした。日本は情報を「場に出して、アクセス権をつける」ということをしますが、当時の米国はそもそも情報共有をしない、場に出さない。メールで宛先をToやCCにすることで、情報の出し先をコントロールしていく。

 そもそも個人主義なので、役員が個室を持っている。会議室などの施設予約機能も『そんなもんいらん、部屋に来てしゃべったらいいし』となる(笑)。

 ビジネスはネットでの直販のみ。オンラインで広告を出していましたが、人件費と広告宣伝費だけでも年間で億単位のお金がかかります。3年目で「やめる」と決めて、完全撤退までに計4年かかりました。

――今回はグループウェアを売らずに、製品を絞り込んでいます。

 クラウドで、かつ「kintone」というシステムを作れるアプリケーションプラットフォームを販売しています。 kintoneはPaaS(Platform as a Service)。さまざまな業務システムをブラウザ上での簡単な操作だけで開発できる製品です。パッケージのスケジュール共有システムを売りに行くのではないので文化に依存せず、企業ごとにカスタマイズできる。

 進出前に1年かけてリサーチしましたが、当時は競合になるような製品はありませんでした。ならば挑戦したい。米国は世界一のITのマーケット、世界の強豪が集まっていってしのぎを削っている。そういう中でやっていくのに、まだ売り上げ70億~80億円、社員500人の会社なんて、「日本では製品が売れている」と言ったところで、向こうではミジンコみたいな小さなものなんです。

 当初、私は「本当に米国に行くなら、青野(サイボウズ社長の青野慶久氏)が行ったほうがいいよ」と言ったんです。全力でやって勝てるかどうかすら分からないから、本社を移すくらいの覚悟じゃないといけない、と。

 でも彼は「いや、育児があるから」って(笑)。それは半分冗談ですけれど、まだ4~5年前はクラウド事業を国内で始めたばかりだったため、軌道に乗るまでは自身で担当したいということでした。それで僕が米国に行くことになりました。