モバイル×バンキングがお金のあり方を変えていく

 創業者の鷹取氏は新卒で入社した三井住友銀行で5年間勤務したのち、米国系の戦略コンサルティングファームを経て2015年1月にKyashを立ち上げた。チャレンジャーバンクという言葉を使っていたわけではないものの、当初からそれにつながる構想はあったという。

「コンサル在籍時にモバイル関連のプロジェクトに多く携わったことで、モバイルとインターネットがこれからさまざまな産業を変えていくと確信した。(金融においても)モバイルとバンキングのテーマがお金のあり方や動かし方を変えていく、この2つを上手く組み合わせられれば資金移動や価値移動の新しいインフラが作っていけるのではないかと」(鷹取氏)

 最初の資金調達時の事業コンセプトはそれを体現した「銀行口座をポケットに」。海外ではすでにSimpleなどのオンラインバンクがユーザーの注目を集めていたが、それらの多くは銀行がメインスポンサーとしてバックアップするようなビジネスモデルが主流で、日本では銀行代理に該当するため実現できない。そこで最初の入り口として「決済・送金」領域に絞ったKyashアプリから事業をスタートした。

「日本ではバンキングとペイメントが完全に分断されていることが1つの課題。銀行残高を知りたければ銀行口座にログインして、カード決済を何に使ったか知りたければカード会社のページをわざわざ開かなければならない。この状態を『1カ所で見える化する』という意味で解決したのが家計簿アプリだ。ただし後から振り返ってみてどうだったかを把握するには便利だが、完全にリアルタイム化されているわけではないのでタイムラグがある」(鷹取氏)

 モバイルとインターネットによってさまざまなものがリアルタイムに同期される今の世の中において、日々のお金の流れについても同じような体験を実現できないか――。Kyashの背景にはそんなテーマがある。

「(Kyashアプリでは)現金の引き出しこそできないものの、実質的にVisaの残高ともいえるKyash残高を手軽に送金することができて、なおかつVisaの加盟店で決済ができるのであれば、それはもはや現金に近い存在。ある意味で『モバイルバンクの一歩目』と言えるのではないかと当初は考えていた。ただ、さすがにVisa加盟店でしか使えない残高をお金と同等にみなすのはマス向けには全く通用しなかった」(鷹取氏)

 鷹取氏は今後の成長を見据えた上で、まずは決済の機能をしっかりと確立させることを決断。実店舗で使えるリアルカードも、まさに決済面での使い勝手を向上させるために生まれたものだ。