このように世の中は人を疑うことが前提で成り立っているわけですが、実は人を疑うという行為は、すべてコストに当たります。
例えば、日本全国の駅には自動改札機が設置されているでしょう。これが何のためにあるかというと、切符を買っているかどうかをチェックするためです。つまり人を疑っているわけですが、自動改札機には1台何百万というお金がかかります。大きな駅であればそれが何十台とあり、さらに全国には何万の駅があるため、鉄道会社がそこにかけているコストは莫大です。もちろん、仮に改札をすべてなくせば、キセル乗車をする人は絶対に現れます。しかし、もしキセル乗車によって被る損害よりも全国に自動改札機を導入するコストの方が高ければ、導入しない方がいいと思うんです。
徳力 確かに、そうかもしれませんね。
光本 結局、リスクがあるからコストをかけて与信をとることになる。しかし実はリスクによって被る損害よりもリスクを減らすためにかかるコストの方が高い可能性があります。これまでに、それを検証した人はいないので、もし僕がリスクにかけるコストはもったいないということが実証できたら、それ以降は人を疑うためのコストをかけなくてもいい世の中になるわけです。
実証にはリスクが伴いますが、僕には失うものがなかったし、おもしろい実験のネタを探しているタイミングだったこともあって試してみることにしました。それを“性善説に基づいたビジネス”と称し、人を疑わなくても取引が成り立つかどうかをテーマに会社を立ち上げたんです。
徳力 たしかに、人を疑うためのコストをかけなくてもいいことが証明されたら、世の中の事業やサービスのつくり方が根本的に変わりそうです。
光本 はい、大げさに言えば「世の中が変わる」と思います。そこに興味がありますね。
与信のあり方には、変革の余地がある
徳力 インターネットもボトムアップでユーザーがつながり合う仕組みのため、本質的には性善説だと思います。CASHのサービスの考え方も、光本さんのように学生時代からインターネットに触れて育ってきた世代だからこそ生まれたのでしょうか。
光本 うーん、そうでもないと思いますけど。ただ、インターネットの時代だからこそ、僕たちの実験が拡散されて、多くの人に認知されたのはあるでしょうね。
徳力 小さなスケールでのスタートでも、大きく拡大する可能性があるということですか。
光本 はい、そうですね。僕がやっている実験は、「オフィスグリコ」なんですよ。オフィスグリコは商品の棚が置かれている横に貯金箱があるだけなので、お金を入れなくても商品が取れてしまいます。でも、お金を入れてくれるだろうと信じることで成り立っている。感覚的には、それと同じです。