「ブレイクダンス」と「ウェアラブルコンピューティング」の意外な共通点
同じ2013年、藤本氏は開発に専念すべくmplusplusを設立した。
「ダンスは、まだ閉じられた世界。たとえば『シルク・ドゥ・ソレイユ』は、サーカスが好きでなくても多くの人が観に行きますが、ダンス好き以外の人も来るようなダンスのイベントはありません。ダンスに何かを掛け合わせて“新しい芸術”にすることで、より多くの人が興味を持ってくれる場を作りたいという想いで、起業に踏み切りました」
ダンサーでもあった藤本氏が「ダンス×テクノロジー」をテーマに研究を始めたのは、大学4年、ウェアラブルコンピューティングの研究室に入った時だった。
研究にのめり込む毎日の中で、中学時代から続けてきた「ダンス」と「大学研究」の間に、思いもよらないシナジーが生まれたという。
「中学時代に始めたブレイクダンスは、決まった振り付けを踊るのではなく、独自の技やネタを発明して、世の中にないモノを作るという特殊なジャンルです。大学でウェアラブルコンピューティングの研究室に入った時に、研究ネタを考える作業がブレイクダンスと一緒で、とにかく楽しかったんです。言われたことをやるのではなく、ゼロから何かを生み出すのが好きだったので」
研究に没頭し、日々ひたすら新しいアイデアを出し続ける学生生活を送った藤本氏。ダンスとテクノロジーを結びつけた新たな作品を考え、作り続けた当時をこう振り返る。
「日本におけるヒップホップのそう長くない歴史の中で、ストリートダンス経験者で、かつダンス領域の研究者として博士になった人は自分以外にまずいないだろうと。自分にしか考えつかないことは絶対あると信じて、テクノロジーの力でダンスを面白くしようと思い、その領域を極めていきました」
ライブでファンが振る「旗」をアップデートする
昨年発表した、mplusplusの最新作の1つが「LED VISION FLAG」。一見無地のフラッグに見えるが無数のLEDが配置されており、そこに映像を流すことで、鮮やかな光の演出でライブなどの演出を盛り上げることができる。
これは、昨年久々にツアーを行ったEXILEの「活動復帰に合わせて伝説的なライブにしたい」という依頼がきっかけで生まれた。藤本氏は、EXILEのライブで、ステージ上での演出やファン向けのグッズとして長年親しまれてきた「旗」に注目した。
「旗を光らせたら面白いのではないかと思い、思いついた次の日には、プロトタイプを作り始めていました。どんな見た目になるかもわからないまま、事務所のカーテンを剥がし、LEDを貼り付けて、カーテンレールを持ち手にして作ってみました」