「とっさの質問にうまく答えられない」「『で、結局、何が言いたいの?』と言われる」「話し方やプレゼンの本を読んでも上達しない」……。そんな悩みを持つ方は、言語化の3要素である「語彙力」「具体化力」「伝達力」どれかが欠けていると指摘するのは、文章や話し方の専門家であり言語化のプロである山口拓朗氏。本連載では、山口氏による話題の最新刊「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」の中から、知っているだけで「言語化」が見違えるほど上達するコツをご紹介していきます。

辛さ、怒り、悲しみ……。「ネガティブな感情」がスーッと消える簡単な方法「『うまく言葉にできない』がなくなる 言語化大全」より。イラスト:さかたともみ

「嫌な気持ち」を抱くこと自体は仕方ない

 人生にはストレスがつきものです。やりたくない仕事もあれば、どうしてもウマが合わない人もいる。「嫌な気持ち」を抱くことは、人間にとって、ある意味、仕方ないことなのかもしれません。

 そんなストレスの除去に一役買うのが言語化力です。ストレスの原因となる“曖昧な感情”を言葉で的確に捉えることによって、ストレスを大幅に減らすことができるのです。

漠然とした「感情」の正体は?

 たとえば「怒り」という言葉。これを見て、あなたはどのような映像が頭に浮かぶでしょうか。

「怒り」に限らず、感情の多くは抽象的です。「私は今、怒っています」というメッセージが届いたとき、鬼の形相で怒っている映像を思い浮かべるかもしれません。でもメールの送り主は、本当はひざから崩れ落ちて泣いているかもしれないのです。

 コミュニケーションを成り立たせるためには、相手の本当の状態を、より具体的に把握する必要があります。

 これは他者とのコミュニケーションに限らず、自分自身と向き合う時も同じです。
 つまり、漠然とした「感情」をできるだけ細かく分解していき、その正体を突き止める必要があるということです。

感情をグラデーションで持つ

 感情を具体化する方法として、「感情をグラデーションで持つ」ことをおすすめしています。そのために必要なのは語彙力です。

 たとえば、「怒り」の感情が芽生えたとき。極論ですが、仮にその人が「怒る=ぶっ殺す」という言葉しか持っていないとします。すると、本当は少しイラっとしただけなのに、「怒り」を感じた瞬間に「殺してやる!」と思うかもしれません。

 一時期、社会問題になった「キレる子ども」たち。この原因として「言語化力の低さ」を指摘する声もあります。語彙力が低い子どもが、自分の感情を把握できない弊害は想像に難くありません。

 大人も例外ではありません。「辛い」という感情を「違和感を抱く→気になる→不安・懸念→不快→苦しい→苦痛→絶望的な苦しみ→抑うつ→生きていられない」とグラデーションで捉えられている人は、自身の感情を管理できている人です。彼ら彼女らは常に感情の現在地を見極め、適切に対処しています。

 感情をマネジメントすることは、取りも直さず人生をマネジメントすることです。

 感情がふっとわいたらその震源地に目をやって、まずは規模や状況の把握に努めましょう。これはどれくらい大きな感情なのか、グラデーションの濃度を確認します。
 すると、「たしかに怒りの感情がわいたけど、イラっとした程度。放っておけば気持ちは落ち着くだろう」と冷静に考えられます。

正体がわかればストレスも減る

 人間は、つかみどころがないものに対して恐怖やストレスを感じます。自分の感情も同じです。モヤっとした感情を冷静に言語化できたら、それだけで落ち着いてきます。
実際、怒っているときに「自分は今、怒っている」と自覚するだけで、怒りの半分は減少するといわれています。

 感情を言葉でつかまえることは、すなわち「自分を客観視」すること。客観視できれば、その感情にのみ込まれることも翻弄されることもなくなります。

 なお、感情を適切に把握できるようになることは、目標や夢を叶えやすくなるパスポートを手に入れることでもあります。なぜなら、チャレンジするときの障害になりやすいネガティブな感情(恐れや不安など)を、そのつどスピーディに癒していけるからです。

 また、たとえ失敗をしても、感情を適切に処理することで、すぐに立ち上がり再び歩き始めることができます。
 胸に渦巻く「悲しさ」や「辛さ」を放置するのか、言葉を使ってその正体を把握するのか、その差があなたのその後の人生を決めるのです。

*本記事は、山口拓朗著「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」から、抜粋・編集してまとめたものです。