こんなことばかり書くと、まったく社会性がない人に見えますが、筋を通す人でもありました。あるとき、伊集院さんの親戚筋にスキャンダルの噂が浮上したことがあります。彼は一言も「記事掲載をやめろ」といった圧力などかけず、「伝統ある直木賞の名折れになりますから、私が辞任します」と一言。

 幸い、このスキャンダルは単なる噂だったので、ちょっとした騒動で終わりましたが、「これが伊集院さんの流儀なんだな」と実感させられるものでした。

直木賞選考会の委員として
とても有難かった理由

 実際、世間の酸いも甘いもわかっている人です。直木賞選考会の委員としては、ありがたい人でした。直木賞は芥川賞と違って、細かい文章論より全体的な面白さや、実際に売れているかといった、いかにも大衆文学の賞という部分が議論の俎上にのぼります。

 そして、芸能人など小説の世界と別世界の人が候補になると、たいていの選考委員は不服そうです。なにしろ、直木賞は大衆文学の新人賞。つまり、小説家としてプロであることを認める賞であり、別の世界で有名だから作品が売れている作家が候補になった場合、快く思わないのは当然です。

 とはいえ、有名だから候補になったわけではありません。候補作については文春社内で何度も選考委員会を開きます。そして、最終的に残った10作品程度から選考委員に読んでもらうのが候補作です。これは新人も重役も同じ一票という忖度なし。ですから、八百長やイカサマはないのですが、なぜかライバル各社は「文春は芸能人で儲けようとしています」などと選考委員たちに耳打ちするので、なんとも空気が悪くなるときがあります。

 あるとき、芥川賞・直木賞の選考委員会の日に文春社内でインフルエンザが流行して、担当役員が全員罹患。本来なら芥川賞担当役員の私が直木賞の選考会に参加することになりました。

 会場準備の都合とかで社員が全員会場から離れ、室内には選考委員と私だけになった時間帯がありました。ほとんどの選考委員は顔見知りでしたが、たまたま一人だけ全然私のことを知らない作家がいて、大声で候補作の批判を始めました。

「文春も落ちたもんだなあ、芸能人の小説で直木賞。なんかバカにされたような気がするんだよね」