選考会にはまだ入っていないので、ただの雑談なのですが、その場の空気がどんなものだったかはわかっていただけるでしょう。実際、〇△×で採点する選考会では、その芸能人は全然票がとれません(私はいい作品だと思っていましたが、社員の発言は許されないのでうつむいているしかありません)。
そして、受賞者が決まったあと、役員である私はふと気づきました。ここにいる社員で一番高位は私。となると、選考会が終わったあとの記者会見に出ていただく先生にお願いするのも私。そして、誰にお願いするかを決めるのも私です。
慌てましたが、そういうときに頼もしいのが伊集院先生です。「このトゲトゲしい選考会の雰囲気を、マスコミの皆さんにイメージを損なうことなく伝えられるのは伊集院さんしかいない」。私は瞬間的にそう思いました。
そこで、わざと大声で「実は前回も伊集院先生に記者会見をお願いしたのですが、今回は、私は初めて直木賞選考会に陪席させていただいています。私のわがままで申し訳ないのですが、できたら伊集院先生にお願いできないでしょうか」と、強引なお願いをしました。
バクチで研ぎ澄まされた
修羅場の切り抜け方
すると、ニヤっと笑った先生が選考委員たちにこう言ってくださいました。
「今回の記者会見は、皆さんが厳しい点をつけた芸能人の方にマスコミの質問が集中します。それにイチイチ答えていれば、せっかく直木賞をとった人に割かれる時間が少なくなります。私なら、『その作品についてはあんまり読んでないんですが……』って誤魔化せますから。やっぱり明日の紙面には、落ちた人のことより受賞した作家にたくさん字数を割いてもらうべきでしょう」
一同、ドッと笑ってその場が落ち着きました。
ああいう修羅場の切り抜け方は、やはりバクチで研ぎ澄まされたものなのでしょうか。そういえば、その直後も文春社員が元気づけられた伊集院さんの行動がありました。
選考会終了後、二階の直木賞選考会会場から一階に階段を降りていく途中、芥川賞の選考が終わった松井清人社長(当時)が、直木賞での挨拶に階段を上ってきました。伊集院さんが、いきなり社長に声を書けます。
「松井くん、ご苦労様。ところで、あなたの任期はいつまでですか?」