「楽しいから記録する」ではなく
「記録するから楽しい」
これまで言ったことをまとめるとこうなります。「体験が楽しいから散歩ノートをつくる」のではなく、「散歩ノートをつくるから体験が楽しく感じられる」のだ、と。その「楽しさ」は人それぞれですが、一例を挙げると次のようなことになるでしょう。
・作家気分で、ノートを旅や散歩のお供にする
・愉快な体験をノートに書くことで思い出す
・ぴったりの言葉で表現できたときの達成感
・ノートを読み返して思い出にひたる
・ノートを自作(DIY)でつくり上げる喜び
記録することでおもしろくなるというのは、趣味でもスポーツでも同じでしょう。たとえば、時計を持たず、コースも決めずにジョギングしている人は、ほとんどいません。みんな自分なりにタイムを計ったり、走った距離を記録したりしています。
ただ「走った」より、「タイムが三分縮んだ」とか、「同じ距離でも息切れしなくなった」というふうに、張り合いや上達が感じられたほうが楽しく続けられるからです。ダイエットでも、体重を記録したグラフが右肩下がりになっていくのを見れば、おなかいっぱい食べたいのを我慢してでも、続けようという気分になります。
釣りでも、好きな人は釣果や魚の大きさを測ったり、魚拓をとったりしています。これは好きなことをより楽しくする工夫でしょう。散歩ノートも基本はこれらと同じです。旅をさらに刺激的なものに変え、普通ならそれほどおもしろいこともない近所の散歩を、心おどるようなものに変える一種の「魔法」なのです。
たとえば、遠くの土地で食事をしたとき、「名物のオイル漬けを食べた。塩分も少なくて和食に合う。親父が好きそう。お土産に買って帰れないか、あとでお店の人に聞いてみよう」と書いておけば、体験からひとつのアイデアを得たことになるし、食べた感想もよりありのままに残しておくことができますね。
また、近所を散歩していても、「これまで聞いたことがない『キィー』と切り裂くような鳥の鳴き声がする。どんな鳥がいるのだろう?」「いつも電車から見ている港だが、夕景がここまで美しいとは知らなかった。まるでリゾートだ。釣り人がちらほら。何が釣れるのか?」と、ディテールを書いておけば、そこから発見があるし、より有意義な体験をしたという実感が得られます。「自分の力で感動を見出した」という充実感があるわけです。
そして、気の利いたお土産を選ぶことができたり、自分の街の自然への理解が深まったりといった「効果」を実感すると、さらにノートをつくる動機が強くなる。すると、またノートに書くような刺激や発見を求めて散歩をしたくなる、というように、記録することで楽しさのスパイラルが生まれるのです。