コロナ禍の自宅トレーニングにマッチして脚光
新型コロナウイルス感染症拡大により世界中の人が自宅待機を余儀なくされた時期、Zwiftを使ったバーチャルトレーニングがとても効果があり、しかも仮想空間に没入して楽しめると注目された。
自転車界の強豪選手やプロチームのコーチ陣も本格的なトレーニングメニューを楽しめる「ワークアウトモード」を利用して、リアルレースで好成績を連発した。Zwiftの選手発掘プログラム「Zwiftアカデミー」からプロ契約を勝ち取ったオーストラリアのジェイ・バインは象徴的な存在た。2021年にアルペシン・ドゥクーニンクというツール・ド・フランス出場の常連チームでプロデビュー。2022年にeスポーツ世界選手権で優勝。
2023年、ツール・ド・フランスで総合優勝を争うトップチーム、UAEエミレーツに移籍。世界三大ステージレースのブエルタ・ア・エスパーニャに出場し、ステージ2勝を飾った。しかもインドアトレーニングでつけた持久力をいかんなく発揮し、2位に大差をつけての独走勝利だった。
日本でZwiftを活用して強くなった選手といえばこの人。スポーツ自転車専門店の「ワイズロード新宿本館」に勤務する植竹海貴だ。
プロ選手ではなく、自転車店で接客業務を担当する一般の社会人。室内バーチャル練習を積極的に取り入れていた。2021年10月23日、全日本選手権エリート女子ロードレースで最後のゴール勝負を制して初優勝。バーチャルで実力をつけ、リアルレースでそれが通用することを証明した日本で初めてのチャンピオンである。
2022年は実業団シリーズで連戦連勝。2023年にはアジア競技大会に日本代表として初選出された。
バーチャルでも相変わらず強い。2023年12月13日に開催された「第3回全日本最速店長選手権 in Zwift」の女性店長・スタッフ部門で3連覇。主催は自転車専門誌のサイクルスポーツで、Zwiftを使ったバーチャルレースが企画され、植竹が2位に大差をつけて独走勝利した。
「室内トレーニングは準備が楽です。外に出るときは自転車の用意をしたり、日焼け止めを塗ったりウエアに着替えたり。室内ならパッと乗って終わるので、トレーニングとしてはコスパがいい。だから仕事をしている人には効率的です」
都内在住の植竹にとって、一般道で理想のトレーニングメニューを再現するのは難題が多いという。家のまわりは交通量が多いので、少なくとも郊外まで30分は走る必要がある。好環境を求めたら移動だけで1時間、メニューをこなして、帰るのに1時間。それが室内なら準備はほとんど不要で、終わったらすぐにシャワーが浴びられるのもいい。
Zwiftにはあらかじめ用意されているトレーニングメニューがあってそれもよく使う。狙ったレースがあったら似ているコースを選んでバーチャルで試走する。カスタムで自由にメニューを作ることも可能で、例えばレースに2分のキツい上りがあるなら、それをカスタム設定してしまう。自分が強化したいことを考えてメニューを自在に作れるのがバーチャルの強みだ。
バーチャルサイクリングはZwift以外にもあるが、これを選んだ理由は「やっている人が一番多いこと。トレーニング仲間とバーチャル上で一緒に走ったりできるし、やっている人が多くないとレースとして成立しないので世界中の愛好家が常にコース上を走っているZwiftがいい」。現在はランニングでもZwiftに参加できるので、コース脇のランナーを見かけることも多くなった。