「人工地震」「攻撃」説は大昔から受け継がれてきた

「人工地震説」はネットやSNSが普及したことによって、近年はわかりやすく表面化しているが、実は戦後まもない頃も存在していた。巨大地震が起きるたびに、庶民の間で「人工地震に違いない」「攻撃を受けたのでは」という陰謀論を誰かが唱えて、酒場や井戸端会議で拡散された。

 ここまで我々が「人工地震」に取りつかれているのは、やはり明治時代からのイメージが民間信仰のように大衆の間に受け継がれてきたということに加えて、太平洋戦争末期の強烈なプロパガンダのせいではないか。 

 ご存じの方も多いだろうが、「マネジメント」で知られるピーター・F・ドラッカーはもともと経営学者ではなく、「ファシズム」を研究していた。

 ナチス・ドイツのヒトラーにもインタビューを繰り返して、国家や社会がいかに全体主義へと暴走をしていくのかをいち早く予見した人でもある。そんなドラッカーは処女作『経済人の終わり』(ダイヤモンド社)のなかで、「プロパガンダ」について非常に興味深い指摘をしている。

「プロパガンダ蔓えんの危険性は、プロパガンダが信じ込まれる、ということにあるのではまったくない。その危険は、何も信じられなくなり、すべてのコミュニケーションが疑わしいものになることにある」

 地震に関しては、まさしく日本はドラッカーの指摘通りになっている。メディアや専門家が「人工地震ではありません」と火消しをすればするほど、「マスゴミの言うことなど信じられるか!」という人がそれなりにいる。

 これは日本社会にプロパガンダがまん延しているという事実を雄弁に語っているのだ。

(ノンフィクションライター 窪田順生)