ChatGPTに代表される生成AIを筆頭に、AIの応用技術をめぐる動きは、2024年、さらに加速しそうだ。現在米国ラスベガスで開催中の世界最大のテクノロジーショー「CES2024」では、進化したロボットから自動運転車まで、世界中のさまざまなAI応用製品が披露されている。その中で筆者が最も注目したのは、2023年には誰もがノーマークだった“rabbit”というスタートアップ企業のポケットコンパニオン“r1”である。今回は、生成AI時代のiPhoneとなる可能性を秘めた“rabbit r1”(以下、r1)について考察する。(テクノロジーライター 大谷和利)
史上初のネイティブAIデバイス r1
rabbitのr1は、ゼロから生成AI利用のために開発された、史上初のモバイルデバイスである。プログラムを組んだりアプリをインストールしたりしなくても、ユーザーが自然言語で話しかけるだけで操作できる携帯型のコンピューターであり、rabbitではr1を「ポケットコンパニオン」と呼んでいる。
たとえば、ChatGPTの開発元のOpenAIのCEO、サム・アルトマンも、元Appleのデザインディレクターで、現在は自身のデザインファーム“LoveFrom”を主宰するジョナサン・アイブと共に、生成AIデバイスを開発中という情報もある。しかしrabbitは一足先に実際に動作するモデルを完成させた。この春から199ドル(約2万9000円)で出荷開始予定だ。
r1は、見た目もシンプルだ。正方形の筐体(きょうたい)に2.88インチのカラータッチスクリーンとスクロールホイール、rabbit eye(イン側にもアウト側にも向く回転式カメラ)、側面のプッシュ・トゥ・トークボタン、そしてマイクとスピーカーを備えている。このデザインを手掛けたのは、スタイリッシュで遊び心に満ちたキーボード製品などを世に送り出してきたスウェーデンの電子楽器メーカー“Teenage Engineering”であり、ここを協業相手に選んだことからも、rabbitという企業のユニークさがうかがえる。
これまでモバイルデバイスの発表には、必ずといっていいほど、アプリの機能性やハードウエアの仕様や性能によって他者と差別化を図るシーンがあったが、r1発表のキーノートでは、そのような説明は一切なかった。その理由は単純で、アプリの機能紹介も、ハードウエアのスペック説明も、r1には必要ないからだ。