シンガポールやタイへ…
東南アジアでも「潤」は増えている
日本やアメリカだけではない。「潤」の動きとしてはシンガポールやタイへ移る動きも活発化している。
シンガポールはコロナに関する入国規制をいち早く撤廃したこともあり、中国人の脱出先として注目を集めた。中国人が高級コンドミニアムなどを「爆買い」するケースが相次ぎ、現地で家賃上昇の一因ともなった。そんな中、シンガポール政府は2023年4月に、不動産を購入する際の印紙税を引き上げ、外国人に適用される税率は従来の2倍の60%とした。この政策が導入されて以降、中国人による「爆買い」はようやく一段落した。その他にも、中国からシンガポールへカネが流出する動きを反映して、超富裕層向けに投資や税務などを一括で取り扱うファミリーオフィスの数が2020年の約400社から2021年には約700社へと急増した。
他にも、タイ北西部に位置するチェンマイには中国人知識人のコミュニティーが誕生しており、著名作家の野夫氏などが滞在している。また、タイ在住の中国人事情通によると、まず到着ビザでタイ入りし、その後トルコを経由して、脱出する方法が一時期確立していたものの、最近では「潤」と分かると搭乗拒否に遭うケースも出てきたとのことだ。
去年東京に移住してきたばかりの40代の中国人男性は「トルコや小国のパスポートを買う人もいます。CRS(共通報告基準、加盟各国の徴税機関が相互に自国民の銀行口座の取引記録を閲覧できる制度)非加盟国だと脱税ができますし、コロナ期には自由に出入りできる安心感を求めてマルタなどで生活する人がいました」と話す。
さらには、北朝鮮からの「脱北者」さながらの現象も起きるようになってきている。2023年8月、30代の中国人男性活動家が水上バイクで中国を脱出。山東省から黄海を隔て、320キロメートル離れた対岸の韓国・仁川の海岸にたどり着くという事件が起きた。
ゼロコロナ政策が引き金となり、中国のあらゆる階層で、「海外で自由に動けるベースを確保する」ことが最重要課題となってきている。「潤」は世界各地で同時に起きている一大潮流なのだ。中国、そして世界各国の状況を踏まえつつ、日本はどのように彼ら彼女らと向き合うのか。本格的に議論すべき時がやってきているといえそうだ。