青年期以来のアイデンティティー拡散状態に陥る人も
これは、青年期のアイデンティティー拡散の心理状態に近いものといえる。
青年期になると自己意識が高まり、「自分は何者か?」「どう生きるのが自分らしいのか?」といった問いを巡って真剣な自己探求が始まる。そうした自己探求の中で、自分はいったい何をしたいのか、自分は何をすべきなのか、どう生きるのが自分にふさわしいのかを検討し、「自分はこういう人間である」というイメージが鮮明になったとき、自己のアイデンティティーが確立されたことになる。そこまで深く考えることがなかった場合も、目指す就職先候補が見えてくると、アイデンティティーをめぐる葛藤からとりあえず解放され、気持ちが落ち着く。
ところが、いくら考えても自分がどうしたいのかが分からず、自分を見失ったまま、自己探求の迷宮にはまってしまうことがある。それをアイデンティティ拡散という。つまり、アイデンティティー拡散というのは、自分がよく分からない状態を指す。
組織から解放され自由な身になる定年後の自分を想像し、どうしたら良いか分からず混乱している人は、まさに青年期のアイデンティティー拡散に似た心理状態にあると言っていいだろう。
特に自分自身の欲求や気持ちを疎外して、組織の原理に則って行動するサラリーマン生活に、何の疑問も持たずに適応してきた人は、自分自身の欲求や気持ちがつかめなくなっている。そのようなタイプがいきなり自由な身になると、「自分が何をしたいのか、どんなふうに暮らしたいのかが分からない」「どうしたら自分が満足する生活になるのか分からない」というようなことになってしまう。