振り込みミスに対して
銀行が親身に扱わない理由
2022年4月に、山口県阿武町でコロナ給付金4630万円を誤って振り込み、受け取った人物がネットカジノで使ってしまい返金されない事件が起きたことを、私は興味深く聞いていた。顧客が受取人を誤って振り込みしてしまうケースはよくあることで、私が勤務する支店でもほぼ毎日のように発生する。
現代ではインターネットバンキングでの振り込みが大半を占めており、間違えようがないと思われがちだ。しかし、操作をするのは人間だから、やはりヒューマンエラーは起こり得る。振り込みを依頼する顧客が間違える場合もあれば、金融機関が事務上のミスを犯してしまう場合もある。
これを最小限に食い止めなければならないのは確かだが、金融機関のミスであることが確実な場合は「銀行都合による錯誤」として、銀行同士の連絡で振り込みを取り消すことができる。その際、受取人の同意は要らない。
しかし、依頼人の不備となると話は別だ。既に受取人の口座に入金されていれば、簡単には返金してもらえない。誤りだったことを受取人側の銀行が受取人に伝えて、同意を得ないと返せないからだ。
送った銀行と受け取った銀行が異なれば、受け取った銀行の対応いかんで返金の可能性が随分と変わってくる。銀行にもよるが、振り込みの依頼人からお金を取り戻したいと申し出があった場合、依頼人の銀行は受取人の銀行にその旨を伝達する。
受取人側の銀行は受取人に連絡をするが、おおむねは電話がつながらない。何度かかけてはみるが、たいていの場合は3日で連絡不能と回答が返ってくる。
受取人側の銀行がどれだけ力を入れて連絡してくれたかは分からない。1日に1度や2度なのか、あるいは15分おきに電話をかけてくれたのか。電話をかけた証拠を見せる必要もなければ、確認する手段もないからだ。受取人側の銀行にとっては一銭の得にもならない、要はやりたくない仕事なのだ。
取り戻した金額の1割でも手数料として銀行の手に入るといった、過払い金請求を請け負う弁護士のようなビジネスであれば話は変わる。しかし、異なる銀行の知らない客のためになど、親身になって動くわけがない。銀行は私企業ゆえ、困っている人に尽くそうという発想はなかなか浮かばないところだ。
そうなると、お金は銀行経由では取り戻せない。当事者同士で解決してもらわなくてはならない。当事者同士でも連絡が取れなければ、さらに困難であろう。