中国との関係性は、立法院長が誰になるかで決まる
立法院長と副院長が別の政党から選ばれる可能性も
立法院長と副院長の選出方法の特徴として、ペアでの選出ではなく個別投票で選ばれるため、立法院長と副院長が異なる政党から選ばれる可能性もあります。そうなると、立法院長と副院長の主義主張や方向性の違いから、例えば、立法院長欠席時に副院長に権限が移ることにより、両者間で異なる判断が生じる可能性もあります。立法院の運営は困難が予想されます。
さらに、もし国民党の候補が立法院長に選ばれれば、台湾と中国との関係性が馬英九政権時代にさかのぼり、当時「ひまわり学生運動」で阻止した中国との「貿易サービス協定」(※)の締結が現実味を帯びます。加えて、これまで8年間民進党が築き上げてきた、多文化主義政治の法制度や政策が大幅に変更される恐れもあります。特に、言語政策や教育制度の中でも、頼清徳氏が中心となって注力しており2030年に台湾社会全体で実現を目指す英語を中心とした「バイリンガル政策」の立法院での審議が頓挫することも避けられないと予想されます。
※貿易サービス協定……台湾と中国間での「海峡両岸サービス貿易協定」の略称。サービス貿易の自由化を目指す同協定は、医療や金融、印刷や出版、建設業から娯楽産業に至るまで、サービス産業の幅広い分野の市場を相互に開放し、参入を容易にするもの。
たとえ、民進党が立法院長・副院長の座を保持できたとしても、異端児でもあり風雲児でもある韓国瑜氏と黄国昌氏とが立法委員として立法院に出席することで、立法院の議会運営に混乱を招きかねません。ところが、1月29日、民衆党党首柯文哲氏の呼び掛けに応じる形で、国民党と民進党はそれぞれ立法院長・副院長候補者が午前と午後とに分かれて、民衆党の立法委員8名と話し合いの場を持ちました。
両党とも密室交渉であったものの、まず、国民党の韓国瑜氏によると「国民党と民衆党とが将来互いに手を取り合って、台湾人民の要求と期待に応えられるよう国会を改革する」という話し合いだったようです。特に、韓国瑜氏と黄国昌氏との間にはこれまで個人的な恨みはあったものの、和やかに抱擁する場面も見られました。一方で、民進党の游錫堃氏は、民進党を代表してではなく個人の見解として、「国会改革」は支持し、「ともに団結していかに台湾をより良くするかを考えることが重要だ」と語りました。
国民党、民進党両方とそれぞれ話し合いを終えて、柯文哲氏は「民衆党の立法院長・副院長候補者は、1月31日、記者会見の場で正式に発表する」と述べました。今後も、各政党の駆け引きが続くでしょう。そういう意味でも、2月1日の立法院長・副院長選出には要注目なのです。
【参考資料】
中央選挙委員会 選挙及公投資料庫 2020ー第15任総統副総統選挙
https://www.tufs.ac.jp/ts/personal/ogasawara/analysis/92consensus.html
東京外国語大学 小笠原欣幸名誉教授(2012年2月8日執筆)
https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2013/9/201309-02.pdf(松本充豊、2013、「交流」No.870、日本台湾交流協会)