日本で売れてるブランド品、その最終消費者は?

 実は日本でブランド品が売れているもうひとつの理由があった。これまでになかった“商品の流れ”だと島田さんは語る。

 振り返れば、新型コロナがまん延する直前まで、日本のブランドショップは中国人観光客による爆買いによって支えられていた。インバウンド市場の黎明期においては、富裕層らが自分のために購入したものだったが、2015年以降は、日本で買ったブランド品を中国に担ぎ込むという“転売ヤー”の暗躍が注目された。

 中国国内でブランド品を購入する場合、関税など諸税が加算され、本体価格は少なくとも1.5倍以上に膨らんでしまうというデメリットがある。中国人が日本や香港などでブランド品を買いたがったのは、こうした内外価格差に加え、ニセモノが存在するというリスクもあったからだが、「日本で購入するブランド品」は、円安がさらにお得感を押し上げてきた。

 島田さんは「確かに中国経済は厳しいが、国民の気持ちはそんなに落ち込んでおらず、ブランド品を持ちたいという欲望は依然強い。以前のように気軽に訪日できる環境ではないとはいえ、中国人による需要は潜在しているのです」と話す。

 その需要を満たすのが、業者すなわち“転売ヤー”による組織的な仕入れと転売だ。かつては訪日中国人観光客に“担がせてきた日本の商品”だが、今では組織的に日本から送り出す新たな商品の流れが生まれているのだと言う。島田さんはこう続ける。

「日本は今、中国人消費者向けの“仕入れ天国”になっています。ここ数年は中国の経済状況を反映してか、中古ブランド品の買い付けが大変顕著です」

 確かに近年は日本で「ブランド品高額買取り」をうたった新聞の折込チラシが目に付く。中国人留学生の中には「休日は中古ブランド品探しに行く」という人もいる。「使用後は保存袋に入れる」という日本人の習慣が、日本の中古ブランド品の「保存状態のよさ」という高い評価に結び付いているようだ。

 日本が中国人消費者向けの“仕入れ天国”になり得るのは、日本から中国への国際配送の“環境整備”にもある。中国系物流企業が日本で活動していることは当コラム(『訪日中国人のカネは日本に落ちない?中国本土へ吸い上げる「囲い込みモデル」の貪欲』)でもお伝えしたが、“転売ヤー”は中国系物流企業を利用することで、日本郵便の「EMS」よりはるかにスピーディかつ安価に商品を中国に輸出することができる。

 日本で高まるブランド品需要、その一部を支えているのはやはり中国の消費だったようだ。「中国政府による規制もあり、以前より転売活動はやりにくくなった」という見方もあるが、これについての詳細は稿を改めお伝えしたい。

 一方で最近の中国では、アイドルやゲームなど、自分たちが追いかけたい対象が細分化するようになった。「欲しいものは必ずしもラグジュアリーブランドではありません」とするコメントも耳にする。日本がそうだったように、中国の若者の消費行動も世代交代とともに変化していくのだろう。

 もっとも、中国は「金持ちに見られないと相手にされない」といったお国柄でもある。見栄と面子にこだわる中国で、ブランド品は他人より上に立つための必須アイテムとして、今後も需要を伸ばしていくのかもしれない。