今、中国でブランド品を消費するのは若者たち…
中国では過去長らく人民服が着られていたが、1990年代後半まで、大都会の上海でもその姿がポツポツと残っていた。それでも“ファッションの街”と言われる上海では、女性たちがファッションに目覚め、旺盛な購買力を見せるようになる。ラグジュアリーブランドが本格参入をし始めたのは、上海でショッピングモール建設が始まる2000年代初頭のことだった。
他のブランドに先駆けて参入していたのは、イタリア発祥の男性向けラグジュアリーブランドA社だった。アジア市場を管理していた佐藤尚さん(仮名)は当時をこう振り返っている。
「ブランド各社は、『顧客の嗜好が多岐にわたる難しい市場』と言われるようになった日本から離れ始め、中国に力を入れるようになりました。その中国は2000年代を転換点に日本のマーケットを追い抜きました」
バブル崩壊の痛手を負う日本経済とは対照的に、中国では目覚ましい経済発展に伴い、新興の富裕層が続々と出現した。
山西省の石炭ビジネスで成功した筆者の知人は、ルイ・ヴィトンのバック大中小を大きい順に腕にぶら下げ、腕にはダイヤの時計、首にはエルメスのスカーフを巻き付けるというコテコテの“ブランド女王”に変身した。
管理を任された中国の華東地区で、佐藤さんは、欧州や日本の市場では見たこともない“金持ち”に遭遇した。「金の指輪に金のネックレス、お札で膨らんだセカンドバッグを小脇に抱え、クロコダイルのブルゾンを700万円の現金でポンと買っていくといった得意客もいました」と回想する。
このような中国の“ブランド第一世代”の特徴について佐藤さんはこう語る。
「短期的に巨万の富を築き、周囲から金持ちに見られたいという欲求が、アパレルやアクセサリー、時計などの高級品の高い需要に結びついていきました」
歳月が流れ、こうした第一世代にはすでに子や孫がいる。今、中国でブランド品を消費する主人公は「90后(1990年代生まれ)」や「00后(2000年代生まれ)」だ。
20万元(1元=約20円)を超えるエルメスのクロコダイルのコンスタンス(エルメスの代表的なバッグモデル)を購入した90后もいれば、50万元のA.ランゲ&ゾーネの時計を買ったと言う女性もいる。バレンシアガのストライプシャツ、ディオールのサドルバッグ、ルイ・ヴィトンの「スクエアードコレクション」などを立て続けに購入する00年后の男性もいれば、プーチン大統領が腕にはめていたというIWCのウォッチを購入して喜ぶ90后の男性もいる。
こうした事例からは、依然として高額消費を可能とする層が部分的に存在していることがわかる。
だが全体で見れば、「バブル崩壊か」とささやかれる中国経済の鈍化とともに、ブランド各社の今後の予測を弱気なものにさせている。