あのころ我が国のなかで起きていたことと、本書が具体的に解析している諸問題の違いは、主に若者たちに狙いを定めて取り込み、偏向した思想を吹き込んで社会を攻撃する戦力にしようとする主体が、一カルト宗教からISやタリバーンに替わっていることと、そのキャンペーンの手段に20世紀末では黎明期にあったインターネットが大々的に使用されていることだけである。

 もう一つ誤解されそうなことを先にお断りしておくと、本書は反イスラムの本でもない。著者は「ムスリムではあるが、大半のフランス在住ムスリム女性と同様にスカーフを被らず、フランスの無宗教原則に賛同する」人だ。著者が立ち上げた「イスラム系セクト感化防止センター」は、教義を云々する領域には決して入らず、洗脳によって崩壊した個人性を再びよみがえらせるために感情や情動に訴える方法をとっている。個人性の再獲得。カルトからの脱洗脳にはこれが大切なステップだと、やはりオウム事件当時に周知されたことを思い出す。

 私たちの国は既に化学兵器テロを経験してしまった。だから正しい警告は、「今後は日本でもテロが起こるぞ」ではなく、「過去から学んで、未来に同じ悲劇を繰り返してはならない」なのだと思う。その一助に、ぜひ多くの方に本書を読んでいただきたい。児玉しおり訳。

どうしてウチの親は変なのか
それでも丸ごと許す美しさ

『謎の毒親』(新潮文庫)
著/姫野カオルコ

 うちの親って何か変で、私は子供のころからたびたび不可解な仕打ちを受けてきました。これは単に私の理解力が足りないせいなのでしょうか。私には親のこれこれこういうふるまいの意味や理由がどうしてもわからず、ただただ謎でしかないのです──