本書は、主人公の「ヒカルさん」が大人になって初めてこういう問いを発し、その問いを受け止めて回答を考え助言してくれる第三者に巡り会い、救済されてゆく過程を描いた小説だ。回答者とは手紙でやりとりしてゆくので、書簡体形式になっている。主なエピソードは7つ。驚くべきことに、全てある親子の間で本当にあったエピソードなのだ。恐怖の虫館も、オムニバス映画叱責事件も、「おまえの頭からはしびとの臭いがする」も、核の部分は実話なのである。そこが本書が「相談小説」である所以なのだが、何と理不尽で怖い──と書いてしまうと、読むのをためらう方がいるかもしれない。大丈夫、ご安心ください。姫野カオルコさんの本だから、読み進むうちに心がほどけて、幸せな気分になっていきます。

宮部みゆき 著
「毒親」つまり子供を苦しめ傷つける親と、その親から受けた毒を中和・解毒して立ち直ってゆく子供と、サポート役の回答者(町の本屋さんのご夫婦だというところがまたニクい)、3つの立場の登場人物それぞれに、私は感情移入してしまった。私もこういう親になったかもしれず、私もこういう子であるかもしれず、私も誰かのためにこういうサポートができる人でありたいと思った。
姫野作品に触れると、いつも、ほのかに光る綺麗なものが目の奥に残る。人が誰でも持ち合わせているはずの小さな「善きもの」の輝き。それはどんな毒にも負けない。でも、その光のみを以て生をまっとうすることができないのが人間の悲しみだ。そういう人間を丸ごと赦そうとする慈愛を湛えて、姫野作品は美しい。