九鬼は、「媚態」「意気地」、そして「諦め」を「いき」の要素として挙げました。一つめの「媚態」とは、「惹きつけ」のことです。客が惹きつけられているのは、芸者の「芸や艶やかさ」であり、芸者が惹きつけられているのは、客の「可愛がってくれて、御座敷に呼んでくれる優しさ」などです。

 二つめの「意気地」とは、「痩せ我慢」のことです。芸者の「意気地」とは、「あっ、あの旦那が来たわ。でも毎回会っちゃダメ。だって、私がゾッコンだと思われるのは癪だもの。今日は会わないでおくわ」。

 一方、客の意気地は、「もう時間かぁ。やっと会えたんだから、あと一時間……。いや、それじゃあ、俺がのぼせ上がってると思われるな……。今日はこのあたりで帰ろう」。しかし、これでは思いが強まる良さがある反面、辛さは残り、良い関係性の継続は難しそうです。

 そこで、継続性を持たせるために必要になるのが、三つめの「諦め」です。「諦め」というと普通は消極的な意味合いに聞こえますが、九鬼の「諦め」は逆です。愛情を持って、相手を認めてあげること、これが「諦め」であり、「執着しないこと」なのです。

「諦め」をポジティブで、豊かにするポイントは「しょうがないなぁ」という言葉をつけることです。芸者からすると、「月に一度しか顔を見せない旦那。旦那には家庭が……グッと堪えないと」。でも、そこを「しょうがないわねぇ。きっと奥さんや子どものためにいいお父さんをやっているのよね。そんな優しいあの人が好きだわ」と考える。

 一方、客は他のお客と仲良くする芸者にイライラ。でも、「しょうがねぇなぁ。たくさんのお客を笑顔にするのがアイツの夢だ。そんなアイツに惚れたんだ」と考えるのです。こうして「諦め」は、より深くてより良い、「増し増し」の関係を可能にします。

悩みへの答えの一例
「しょうがないなぁ、あの子は人気者だから」。相手を認めることで、なんだか前向きな気持ちになりませんか?