近くで見る窯の迫力

 続いては「らくやき」コースだ。こちらは約100種類の素焼きから好きなものを選び、10種類の絵の具で絵付けをする。焼き上がりまでわずか20分。そのまま持ち帰ることができる。料金も小さなものだと箸置きが250円と非常に手頃だ。

現代人が「陶芸」にハマる必然、体験取材で思い出した「大切な人間観」とは?絵付けをする素焼きの棚 Photo by Wataru Mukai

 記者が選んだのは小ぶりな一輪挿し。家に無かったのでちょうどいいと思ったからだ。むろん、日常的に使うつもりなので、絵付けの図柄にもこだわりたい。さて、どんなものがいいか。作業机に置かれた『図案の手帳』をめくりながら、ピンと来るものを探す。

 選んだのは平和の象徴であるハトの線画。一筆書きなので失敗は許されない(実は消しゴムで消せるそうだが……)。かなり緊張したが、まあまあ上手く描けたのではないだろうか(自画自賛)。これを馬場さんに預け、店内の窯で焼いてもらう。

現代人が「陶芸」にハマる必然、体験取材で思い出した「大切な人間観」とは?「本当に使えるもの」を作りたいとシンプルな柄を選んだ筆者 Photo by Wataru Mukai

 焼く前に釉薬にどぶりと漬けるのは、高熱で陶磁器の表面にガラス質の膜を作り、器の素地に水や汚れが染み込むのを防ぐためだ。また、透明感のあるツヤや質感も表現できる。確かに普段使っている茶碗や湯呑みも表面がツヤツヤ。それも釉薬のおかげなのだと、いまさら気づく。

現代人が「陶芸」にハマる必然、体験取材で思い出した「大切な人間観」とは?釉薬は素焼きの内側まで漬ける Photo by Wataru Mukai

 窯は3段に分かれ、それぞれ内部の温度が違う。上段が200〜300度、中段が400度、下段が800〜1,000度だ。上から順番に入れていくのは、いきなり高温で熱すると割れてしまうから。「特に水分をしっかり飛ばさないと水蒸気爆発を起こしてしまう」と恐ろしいことを平気で言う馬場さん。手軽とはいいつつ、窯で焼くというのは危険な作業なのだ。

現代人が「陶芸」にハマる必然、体験取材で思い出した「大切な人間観」とは?上段に置かれた一輪挿し(左)は中段を経て、下段(右)に移動させられる Photo by Wataru Mukai

 この日は気温が低かったこともあり、窯の温度がなかなか上がらず、予定より時間がかかったが、それでも30分ほどで焼き上がった。窯から出した直後の器は釉薬が溶けて真っ赤。それを冷やすために水につけた時のジュッという激しい音は今も耳に残る。

現代人が「陶芸」にハマる必然、体験取材で思い出した「大切な人間観」とは?ジュッ!の瞬間 Photo by Wataru Mukai

 冷めたらそのままお持ち帰りオーケー。ただし、らくやきは通常の焼き物に比べて強度が落ちるので取り扱いには注意だ。受け取り後2日間は使用せず、よく乾燥させるのが肝心である。