佐藤 集合的無意識でしょう。日本のエリート層が今のまま日本国家で生き延びるために、無意識で起こしている潮流ですよ。

白井 やはり行き当たりばったりで、計画性はないのですね。

佐藤 この先はさらに何が起きるかわからない。私みたいに分析専門家をやっていると、悪いシナリオと、ものすごく悪いシナリオしか見えないけれど。

白井 私も特に3・11以降、最悪の想定しかしなくなりました。

佐藤 安倍政権に関しても、好き嫌いはともかく次によりマシな政権がくる可能性はかなり低いですよ。混乱は免れない。しかもその閉塞した状況が、世界全体を通じて起きている。これまでの常識が通用しなくなるかもしれない状況下で、海図なきままに泳いでいかないといけない。いよいよ自分で考えなければ生き残れない時代になっていくでしょう。

染みついた奴隷根性を
恥ずべきものと思うこと

白井 今、一番気になっているのは、覇権国が移行する過程で起こるかもしれない、戦争のことです。これまでの歴史上、覇権が移行するときはしばしば大きな戦争が起きていますよね。20世紀に覇権はイギリスからアメリカに移行しました。それが中国へ移るとなったとき、アメリカも座視はしないでしょう。そのとき歴史のけじめとして何らかの犠牲が必要になる。このままでは日本人に矛先が向くと思うんです。自立心がなく、奴隷根性が染みついた民族としてその命の価値が軽く見なされるのではと。

佐藤 少なくとも外交上では、日本の存在感はほぼありません。

白井 日本人は能力があるはずなのに、こんな情けない状態になっているのは、それこそ『国体論』で論じたような、「国体教育」の賜物だと思うのですが。

 かつて天皇を頂点とした国家として行われていた国体教育は、現在も、トップをアメリカにすげ替えた形で我々を支配しています。今後この日本で生き残るためには、まず自分たちに無意識のうちに根づいてしまっている奴隷根性を恥ずべきものと思わないと。

佐藤 代議制民主主義の社会モデルとしては、国民一人ひとりが外交や政治について考えなきゃいけない社会は本来よろしくないんですよ。自分たちの中で代表者を決めたら、政は彼ら彼女らに任せ、一般市民は個々の経済や文化で自己の可能性を形にしつつ納税し、家庭を持ち、子どもを育て……という、マルクスの言うところの再生産を行えばいい しかし今、その再生産の仕組みが成り立たなくなっています。さらに、指導者となるべきエリート層の思考力が著しく低下している。このような状況下で何も考えずにいると、気づいたときには自分の望まない環境にいる可能性が高くなるでしょうね。