彼は、もともと本店で寿司を握っていた若手の職人さんでしたが、仙台店を出店するにあたって店長に抜擢。ところが、非常に短期間での出店を強行したこともあって現場は大混乱。パニック状態のままオープン初日を迎えることになりました。

 今では笑い話ですが、開店当日、お客さまでごった返したためにお昼の「賄い」がつくれず、スタッフから不満の声が上がったときには、店長自ら「働くのをボイコットします」と言い出したこともあります。彼をなだめるのに一苦労しましたが、彼は職人経験しかなかったわけで、スタッフの不満を抑える方法がわからないのも当然のことではありました。

「問い」を立てて、
一緒に「答え」を探す

 そして、オープンから5ヵ月ほど経った頃、仙台店の人件費がかなり高くなっていたので、僕は「人件費比率を30%に下げる」という目標を彼に与えました。

 ところが、「人件費比率を下げる」と言われても、彼にはどうすればいいかわかりません。ここで具体的な指示を与えたくなるのをグッとこらえて、「どうしたら、人件費を下げられると思う?」などと問いかけることが大事です。もちろん、必要なときには「教える」「指示する」ことも大切ではありますが、それ一辺倒では相手の「自主性」「自発性」「自走力」を養うことはできません。「問い」を立てて、一緒に「答え」を探すというスタンスが望ましいと思うのです。

 そのようなアプローチを粘り強く繰り返すと、「一度に入るアルバイトさんの数を減らすとか?」などと彼なりに「答え」を探し始めます。とはいえ、「でも、そんなことをしたら、みんな忙しくなるから無理ですよ」などと自ら否定したりもします。

 そこでさらに、「アルバイトさんを減らしても、忙しくならない方法はない?」「ほら、今だって、職人さんの手が空いてるけど、ホールは忙しそうだよね?」などと問い掛けを重ねることで、彼の思考をどんどん深めていってもらうのです。

部下の「目の色」が変わる瞬間

 そうすれば、いずれアイデアに辿り着きます。
 当時、職人さんは寿司を握るだけ、ホールのスタッフは注文を取るだけといった形で、役割分担がきっちり分かれていましたが、手が空いているときは、職人さんが注文をとってもいいし、ホールのスタッフが皿を洗ってもいい。そうやってみんなで助け合えば、人件費比率はもっと下げることができると気づいたりするのです。

 もちろん、これを実行に移すためには、スタッフ全員の協力を引き出さなければなりませんから、店長ひとりでは「壁」にぶつかることもあります。だから、創業者である鎌田秀也会長と柳香正人執行役員のふたりに、現場で寄り添いながら粘り強く店長をサポートしてもらいました。

 そして、徐々に人件費比率が下がってくると、店長もそこに面白さを感じるようになります。しかも、人件費比率が下がれば「利益」が出ますから、ボーナスを増やしたり、基本給を上げたりすることもできます。

 こうして「実益」を実感できるようになったら、店長も目の色が変わってきます。そして、人件費比率だけではなく、「利益」を出すためにはどうすればいいか、自ら考え始めるようになる。こうして、自分の力で「壁」を打ち破ってくれるようになるのです。