「意識レベル」が変わるような“刺激”を与える

 ただし、「目標」だけでは足りません。
 というか、時には、頑張っても「目標」を達成することができないこともありますから、そんなときに「目標」というアプローチだけだと心が折れてしまうことにもなりかねません。

 そこで、僕は「刺激」を与えることが多いです。
 たとえば、「塩釜港」の店長たちを東京の一流店に連れていくと、寿司の旨さはもちろん、お店の空間そのものの快適さ、行き届いた掃除、お客さまに声をかけるタイミングや話題の選択などなど、ありとあらゆることが「刺激」となり、「一流はここまでするのか!」という「感動」が生まれます(寿司の素人である僕ももちろん勉強になります)。この「感動」が原動力となって、「うちのお店も、もっとこうしたい」という思いが生まれ、成長し始めると思うのです。

 あるいは、上場企業の社長などとの会食に同席してもらう、というのも効果的だと思います。

 これは楽天野球団の社長だった頃によくやったことですが、会食に若手社員を同席させて、そういう方々との会話を聞いてもらうだけでも、ものすごい「刺激」になるのです。

 当たり前ですよね? 上場企業の社長と、社会に出たばかりの若者では、見えている世界が違いますから、まず間違いなく度肝を抜かれるわけです。そして、上場企業の社長が、この世の中をどんな視点で見ているのか、時事的な問題についてどういう意見をもっているのか、人生に何を求めているのか、といったことに触れるだけで、「意識レベル」が違ってくると思うのです。

部下に「見えてる世界」が変わる

 このような感じで、僕なりにいくつもの「引き出し」をもっておいて、状況に応じて最適と思われる「アプローチ」をしていくわけですが、それがうまくハマッて、「やる気」のスイッチを押してくれたときは、おそらくリーダーにとって最も嬉しくて、楽しくて、やり甲斐を感じる瞬間ではないかと思います。

 実際、「塩釜港」仙台店の店長も、いまでは見違えるように成長してくれました。店長に抜擢したときとは「目の色」が全く違う、そして「見ている世界」が違うと思うんです。

 僕は、社長に就任したときからずっと、「塩釜から仙台へ、仙台から東京へ、東京から世界に出て行こう。そして、世界中から塩釜に寿司を食べに来てもらおう」と夢を語っていましたが、当初は「なにわけのわかんないこと言ってんだよ」という感じだったのが、今では、その夢に一緒に乗ってくれていると実感できるのです。

 ミーティングをやっていても、以前は「受け身」だったのですが、「もっとこうしたい」「次の課題はこれだと思うんです」などと積極的になり、しかも、僕があれこれ言わなくても、自らどんどん動いていってくれるようになりました。

 さらに、仙台店のことだけではなく、僕が思い描いている「塩釜港」の将来ビジョンを踏まえつつ、「こんなこともやってみたいですね」などと熱く語ってくれるようになったのです。

こうすれば、リーダーはもっと「楽」になれる

 これには、僕自身、目を見張る思いです。
 やっぱり、「やる気」のスイッチさえ押してくれれば、人はどんどん成長していくんだと、ちょっと感動すら覚えます。しかも、こうして成長するメンバーが現れると、リーダーはどんどん楽になります。

 なぜなら、僕があれこれ言わなくても、彼がどんどん自走してくれるわけですし、彼の「やる気」がほかのメンバーにも乗り移って、組織全体も好転し始めるからです。こうした組織の好循環を生み出せれば、あとは「慣性の法則」が働くから、リーダーはどんどん身軽になる。そして、未来に向けた取り組みに邁進できる環境が整うというわけです。

(この記事は、『リーダーは偉くない。』の一部を抜粋・編集したものです)。