書影『東大教授が語り合う10の未来予測』『東大教授が語り合う10の未来予測』(大和書房)
瀧口友里奈 編著

黒田 私がある講演会に出席した時、私の前の方がデジタルアーツ(*4)の話をしたんですよ。ところが、その講演を聞きに来ている人は、どちらかというとアート系よりも製造業の人たちが多かった。だから、デジタルアーツの話をした人に「それは、他のものと比べた時にどういういいところ、悪いところがありますか」と会場から質問が出たんです。製造業の講演では、そういう質問は当たり前なんですよね。でも、その質問を聞いたデジタルアーツの人は、ポカンと口をあけて「私は他と比べたことがありません」と答えたんです。これは文化の違いです。

*4[デジタルアーツ]
コンピュータを使って制作された芸術作品のこと。コンピュータグラフィックスを使って描かれたイラストや、デジタルカメラで撮った写真、また、その写真を加工したものなどを指す。映像作品や立体投影(プロジェクションマッピング)なども含まれる。

瀧口 だって、アートですからね。

黒田 デジタルアーツの人は「人と比べることに興味がない」と言ったんです。実は、そういう「心の柔らかさ」のようなものが重要です。それがなくなると、心がどんどん硬くなって、どんどん小さくなってしまう。大学は色々な人が集まる場所ですから、柔らかい気持ちで「面白そうだ」と思うことをやっていた方がいいと思います。

川原 僕らのプロジェクトにもアーティストの方が何人か参加されているんですが、アートの力の本質は「人の心を動かすこと」なんですよね。それは「本当に感動した」というポジティブなことかもしれませんし、逆に嫌悪感を与えるようなものもアートとしてはやはり一流なんです。そして、議論が巻き起こって「もっといいもの」「みんなが求めているもの」がわかってくることが重要なんだと思います。ですから、ホイポイカプセルもいいことばかりではないと思います。例えば、軽いのでぶつかったら吹っ飛んでしまったりするかもしれません。色々と乗り越えなくてはいけない壁があるかもしれませんが、これまでと違う見方をすることで、新しい使い方に気づくこともあるのかなと思います。