じつは、歴史的にいうと日本で大型犬は、人びとから距離を置かれる存在だったともいえます。江戸時代、大型犬は庶民とは対極の権力者の側にありました。たとえば、いまの佐賀市などに当たる鍋島藩では、大名の鍋島家が威光を示すため、鎖国中にもかからず大陸から唐犬を輸入し、犬(いぬ)牽(び)きとよぶ飼育係まで設けて飼っていました。
そのようすが、江戸図屏風に描かれています。大きな犬たちが犬牽きによって街なかを歩いている景色が見られますが、これを見ている町民たちのようすからして怖い存在だったのでしょう。対照的に、別の江戸時代の絵画には、江戸の犬たちが喧嘩をし、これをおもしろがっている庶民のようすが描かれています。こちらは中型犬くらいの大きさです。日本では大型犬は権力者側の動物であり、庶民たちからは距離を置かれる対象だったともいえます。
しかし、現代では、盲導犬、介助犬、聴導犬などとして活躍している大型犬も増え、私たちとの距離は江戸時代にくらべたら近くなっているのは確かです。大型犬たちの今後をどうにかして守っていければというのが私の願いです。
一定以上の認知能力をもつ哺乳類におしなべていえることですが、犬は自分の大きさをわかっています。人間が自分の体格を他人とくらべたりして気にするのとちがって、犬は自分の大きさを知りえないように見えますが、大きい犬は大きい犬なりの振る舞いをします。たとえば、飼い主に対して抱っこをせがむことはありません。一方、小型犬は飼い主に対してよく甘えます。大型犬は大型犬としての、小型犬は小型犬としての、自己認識があるように映ります。