実は小型犬より短命!
大型犬の寿命の謎

 犬の大きさをめぐるパラドックス的な謎もあります。大型犬の寿命は小型犬の寿命より短いのです。生物学者の本川達雄さんは、かつて『ゾウの時間ネズミの時間』という著書で、大型動物でも小型動物でも一生に打てる心拍数はだいたいおなじであり、単位時間当たりの心拍数が多い小型の動物のほうが早く死ぬ傾向にあるというのを、グラフなども使って鮮やかに説きました。

 この話からすると大型動物のほうが、単位時間当たりの心拍数は少なく、その分、寿命は長くなるはずです。事実、大型犬の心拍数は1分間当たり40~50回であるのに対し、小型犬では60~80 回です。この差からしても大型犬は小型犬より長生きしてもよいはずですが、現実は逆です。ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」によると、2022年における犬の平均寿命では、超小型犬が15.31歳、小型犬が14.28歳だったのに対し、中・大型犬は13.81歳でした。

書影『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)
林 良博 著

 なぜ、生物学的な法則に反して、大型犬のほうが小型犬より寿命が短いのか。これについては、さまざまな人がさまざまな理由を考えています。その理由に関係することで、確かなのは祖先である狼よりも大きな犬種が存在するということです。狼の体長は100~160センチメートル、体重は25~50キログラムですが、犬にはこの狼の大きさを超える大型犬もあります。

 大型犬が大きいのは、人の手による育種の結果です。祖先の狼からあまりにかけ離れた大きさになった犬には、どこか無理がはたらいているのではないかと考えてしまいます。大型犬からすれば、体が大きいことも人にしくまれたものであり、割と短命であることは決して幸せなこととはいえません。しかし、だからといって大型犬がいなくなればよいという話ではありません。大きな体の犬種として確立している以上、大型犬にも未来にかけて繁栄していく保障があってしかるべきです。