松本人志氏の性加害騒動で
被害者の名前開示を求める理不尽さ

 同じことは「松本人志告訴騒動」にも言えます。テレビも新聞も、「法廷で文春・松本、どっちが勝つか」という評論ではなく、被害者A子さん・B子さんをはじめ、松本氏のために女性を集めたとする芸能人たちに徹底的に話を聞いて、記事の真贋を自分たちで確かめる取材をなぜしないのでしょうか。

 3月28日付の朝日新聞デジタルが初めてB子さんの取材をしましたが、メディアの基本姿勢は吉本興業および松本氏寄りのコメンターと名誉棄損裁判をよく知らない弁護士による、テレビへの忖度だとしか思えない法廷知らずのコメントが目立ちます。

 初回の法廷(口頭弁論)で、松本氏側は記事中のA子さん・B子さんの名前やプライバシーを明かせという「珍要求」をしました。文春側の喜田村洋一弁護士は「こんな要求初めて」と一蹴していましたが、報道側に取材源の秘匿が認められていることは法律家なら常識中の常識です。

 いや、私が普通に考えても「事実無根」だから「名誉棄損された」と訴えた松本氏が、A子さんやB子さんの名前も顔も知らないなら、「事実無根」と言えるはずがないのです。ましてや報道直後、女性からのラインがSNS上に上がったとき、「とうとう出たな」などと松本氏がつぶやいているのですから、わかっているのはハッキリしています。

 にもかかわらず「8年前のことで、A子と言われてもわからないのだから、聞くのは当たり前ではないですか?」と尋ねるコメンテーター。いや、弁護士の中にも「普通聞きますよ。どんな弁護士でも」と力説する人がいました。

 彼のHPを見ると、「テレビに多数出演中」というキャッチが目立ちますが、大きな名誉毀損裁判の経験はないようです。つまり、法廷を経験していないか、ほとんどないか。そんな経歴の弁護士のコメントと、日本で一番名誉棄損裁判の経験が多いと言われる喜田村弁護士の「こんな要求初めて」という論評は、本来並列にされるべきではなく、前者はまともなメディアならボツにするでしょう。

 それだけではありません。昨年から、性被害などを民事裁判で訴える場合、原告が氏名も名前も隠して「匿名」で裁判を起こせるようになりました。今年2月には改正刑事訴訟法が施行され、性犯罪などの疑いで容疑者を逮捕する際、逮捕状などの被害者の記載は「匿名」でよいことにもなりました。弁護人には「容疑者には伝えない」という条件を原則として、情報が開示されるというのが新しい法律です。喜田村弁護士の言う「開示すれば、SNSなどで証言者に被害が生じる」という懸念は当然です。