松本裁判に関してテレビに申し上げたいのは、弁護士にコメントさせる場合は主な裁判の経歴をテロップで流すべきだということです。医師をテレビに登場させるとき、感染症専門の医師にガンについてのコメントはさせないでしょう。それと同じことなのです。

紅麹騒動は「事件化」も
それを調べることが仕事では?

 そして、最後に小林製薬の紅麹騒動においても、メディアの動きに疑問が残ります。確かに、工場内や製造過程に潜入して調査することはできません。しかしこの「事故」は、可能性は低いものの「事件」になる可能性もあります。現状、厚生労働省も小林製薬も、紅麹に混入していたプベルル酸という青かびから出る猛毒が原因として有力だということでは一致しています。

 しかし、混入経路および、それが青かびから発生した原因、そして腎臓への影響における因果関係は不明なまま、ということになっています。ただ気になるのは、専門家の説明によると(1)機械の空洞の部分から青かびが混入した、(2)何らかの異物から青かびが発生した、の他に(3)他人が混入させたという可能性も指摘されていることです。

 もっとも、「作業場にはスタッフがポケットもない作業服で立ち入るので、混入し得る可能性は極めて少ない」と力説はしていましたが、工場内に詳しい人間ならこの隙を見つける可能性は十二分にあります。

 しかも、混入していた製品がすべて、昨年小林製薬が廃工場にした大阪の工場の製品であるという点も気になります。小林製薬は大阪の工場を廃止して、和歌山に移転すると決定した時点で「大阪工場の雇用は守る」という宣言を出しています。つまり、移転についてはそれだけモメた可能性があります。古くから大阪で勤めていた人で移転が不可能だった人、あるいは移転補償をめぐってトラブルになった人物はいないのでしょうか。

「人間による毒物混入の可能性がある」と専門家がいう以上、警察がまだ動けないだけに、地元の取材はそれこそメディアの仕事ではないでしょうか。恨みを抱く人物がいたら、要警戒です。なぜなら、第二の毒物混入事件もありうるからです。

 コタツ記事とは、アシで取材せず資料やネットだけで書く記事のことですが、今の日本のメディアは、アシも頭脳も使わず記事や番組を垂れ流しているように感じます。まさにコタツ以下の「昼寝記事」と言うべきでしょうか。

(元週刊文春・月刊文芸春編集長 木俣正剛)