小説版『三体』における
文化大革命シーンの扱い

 実は『三体』は昨年、中国の動画サイトがそれぞれアニメと実写版を製作して配信している。ただ、当然ながら、中国共産党にとって大変不名誉な歴史とされている文化大革命のシーンの再現はするりとかわされて、そこが強調されることはなかったようだ。だからこそ、中国語で原書を読み、Netflix版を待っていた中国人ファンたちを驚かせた。

中国発のSF『三体』中国・テンセントビデオが2023年に配信したテレビドラマ版「三体」。全30話と長く、主要キャストは全員中国人だった (C)TENCENT TECHNOLOGY BEIJING CO.,LTD

 資料をひもとくと、原作におけるこの文革のシーンは2006年に始まった雑誌上の連載では冒頭に置かれていたそうである。それが2008年に書籍として出版される際に真ん中に移動された。だが、2014年の英語版の出版で前述した通り、また冒頭に戻されたわけである。

 中国では文革とその時代に対する批判的な表現は、1990年代後半から2010年ごろまではかなり許されていた。しかし、その後、特に習近平の時代に入ってからは、毛沢東時代および全般的に共産党やその統治への批判や非難めいた発言はかなり厳しく制限されるようになった。文革についても同様で、時代が遠ざかったこともあり、現代の人々の口にはほとんど上らなくなっていった。

 そんな時代に入ってからすでに10年あまりがたち、世界的なSF大賞「ヒューゴー賞」に選ばれた劉慈欣の原著を読んで育ってきた人たちには(https://diamond.jp/articles/-/339523)、Netflix版はあまりにも刺激が強すぎた。