仕事をしているときが、幸せ

キム いずれにしても、若いうちに一度がむしゃらにがんばる、前だけを向いてがんばる、ということは非常に大事なことですよね。その体験がある人とない人とは、あとになってかなり差が出てくるような気がするんです。20代は発散気味ではなく、凝縮する感じで愚直に努力を積み重ねることで、30代での疾走のための燃料を貯める。そして40代になったら収穫をする、私自身はそういう感覚で今までを過ごしてきました。

 自分の夢がはっきりして、それに情熱を燃やしながら一生懸命走って、それで結果的にスピードも持久力も出来上がってくる。それが、一番理想ではあると思うんですが、自分の夢や、やりたいことがはっきり見えない場合も、まずは社会に出て、自分が成長できるところに身を置こうとする、またどんな環境でもその環境の下で成長を見出だそうとする、そういう姿勢が大切な気がします。

 例えばきついところに身を置くことによって、まずは走る体力が身につく。僕はよく言うんですが、社会は海のようなもので、そこに出る前に、地味ではあるし、風景や星も見えないんだけど、一生懸命プールで練習していくと、海に投げ出されてもおぼれずに、目標としているところに時間をかけてたどり着くことができるような気がするんです。
最初はちょっと退屈で、自分の中でワクワクしないかもしれないですが、自分自身を成長させる環境に自分の身を置きながら、目の前のやるべきことを徹底的にこなしながら自分を成長させていく。そういう時期も必要じゃないかなと思います。

失敗をゼロにして、成功を一〇〇になんてできない!<br />【小倉広×木暮太一×ジョン・キム】(後編)木暮太一(こぐれ・たいち)
経済入門作家、経済ジャーナリスト、出版社経営者。NHK「ニッポンのジレンマ」、TBS「よるべん」ほか。『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『学校で教えてくれない「分かりやすい説明」のルール』など。著書32冊、累計80万部。

木暮 今、考えると、僕もあのとき走れてよかったなと思っています。でも、当時は本当にそんなことを考える余裕はなかったですね。たぶん今、みなさんの中でそういうような追い立てられて走ってる方も中にはいらっしゃるかなというふうに感じます。そういう方はあとからあんなふうに走らされてよかったなと思うときがたぶん来ると思います。

キム しんどさが自分の成長につながればいいんですね。だから逆境と出会ったときにそれは決して自分を苦しめるために神様が与えてくれたわけではなくて、自分を強くするためにそれが与えられたと思えばいい。

 私自身、留学をして友達もすべて失って、ゼロから言語も学ばなきゃいけなかった。なのに当時、それを繰り返してできたのは、その過程の中で自分の成長を自分自身がなんとなく実感したからだと思うんですね。居心地の良い居場所から飛び出して、新しい挑戦をするたびにより強い自分と出会ってきた。

 苦しみというのは強さに変わると自分への信頼が高まるので、最終的に苦しみは喜びに変わっていく。そういった人生を僕は20代の十年間は探し求めて走り続けてほしいなと思います。

木暮 最後にもう一つのテーマに行きたいんですが、人間はどうして働くのかを考えていくと、最終的には自分の幸せにつなげるため、ということが大きいと思っているんですね。
 では、幸せってそもそも何なのか、どういうことが幸せにつながるのか、最後に考えたいんです。

失敗をゼロにして、成功を一〇〇になんてできない!<br />【小倉広×木暮太一×ジョン・キム】(後編)小倉広(おぐら・ひろし)
理念浸透とリーダーシップ開発を専門とする経営コンサルタント。株式会社リクルート組織人事コンサルティング室課長、ソースネクスト株式会社(現・東証一部上場)常務取締役などを経て現職。大企業の中間管理職、公開前後のベンチャー企業役員、中小企業の創業オーナー社長と、あらゆる立場で組織を牽引。しかし、リーダーシップ不足からチームを束ねることに失敗し二度のうつ病に。一連の経験を通じて「リーダーシップとは生き様そのものである」との考えに至る。著書『任せる技術』(日本経済新聞出版社)「自分でやった方が早い病」(星海社新書)「僕はこうして苦しい働き方から抜け出した」(WAVE出版)「33歳からのルール」(明日香出版)など25冊。また、7冊の著作が韓国、台湾、香港などで翻訳販売されている。

小倉 僕は、仕事をしているととても幸せなんです。ワークライフバランスがよく語られますが、仕事と家庭、仕事とプライベートを分けるのはおかしいと僕は思っているんです。当たり前ですけど、一番幸せな状況って、仕事とプライベートが一体化していることだと思うんです。仕事のために働くことをライスワークと言ったりします。米のライスですね。飯のために働くライスワークがあって、一方で自分の人生そのもののライフワーク、自分の人生を充実させるために働く。それが一体化するのが最高だと思っています。おかげさまで今、僕はそうさせてもらっていると思っているわけですね。

 だから全然苦痛じゃないし、いつ休んでいるんですか、と言われますが、休みと仕事の区別って何だろうと、すごく不思議でしょうがないんです。まあ、そうなれているのは、すごいラッキーだと思うんですけど。