都をどり祇園の花見小路かいわいにある提灯やポスターが「都をどり」の雰囲気を盛り上げる(東山区) 

京都の春の訪れを知らせるのは桜の花だけではありません。はんなりとした京文化の粋、花街の舞踊公演も始まりました。舞妓さんや芸妓さんの舞、その絢爛な衣装や舞台美術、唄や和楽器の生演奏など、目と耳で存分に堪能してください。(らくたび、ダイヤモンド・ライフ編集部)

150回の節目に体験したい祇園甲部「都をどり」

 ソメイヨシノが盛りを迎えてから、京都の春にもう一つの彩りを添えるのが花街(かがい)の舞踊公演です。京都には祇園甲部(ぎおんこうぶ)、祇園東宮川町(みやがわちょう)、先斗町(ぽんとちょう)、上七軒(かみしちけん)の五花街が残りますが、11月に「祇園をどり」が行われる祇園東以外は、3月から5月にかけて、日頃のお稽古の成果を舞台で披露します。運良く通り過ぎる姿を目にするくらいの舞妓さんや芸妓さんたちの姿を存分に堪能できる絶好の機会。今年はぜひ、舞踊公演に足を運んでみましょう。
 
 春の公演は、現存最古の花街である上七軒(上京区)の「北野をどり」(3月20日~4月2日)から始まります。花見の前後でこれから楽しめる舞踊公演を三つご紹介しましょう。 

若村亮若村 亮  わかむら・りょう株式会社らくたび代表取締役。京都関連書籍や旅行企画をプロデュースする一方、大学の京都学講師や各所文化講座の京都関連講演などで、月の半分は全国を飛び回っている。現在講師を務めている講座には、学習院大学、NHK文化センター、クラブツーリズム、中日文化センターなどがある。ほぼほぼ毎日、京都の歴史文化や最新の観光情報などをライブトークする「らくたび通信ライブ版」を配信、アーカイブもYouTubeでも視聴可能。この他、FacebookInstagramX(旧Twitter)でも発信している。

 祇園が花街となったのは、江戸時代の寛永年間(1624~44年)のこと。八坂神社(旧称・祇園社)の門前町として栄え、参拝客をもてなす茶屋街が形成され、明治時代に祇園甲部と祇園東に分けられました。「祇園甲部」とは、花見小路通の四条通から建仁寺にかけての祇園町南側一帯と、縄手通・花見小路通・新橋通・四条通に囲まれたエリアで、隣接する「祇園東」は四条花見小路の北東側一帯を指します。

 まずは、祇園甲部の「都をどり」から。京阪本線「祇園四条」駅から徒歩8分ほどの祇園甲部歌舞練場で4月1日から30日まで、1日3回の公演が行われています。

 東京遷都で意気消沈していた京都の街を盛り上げようと、1872(明治5)年、西本願寺・建仁寺・知恩院を会場に京都博覧会が開かれました。その余興として、当時の京都府参事・槇村正直(のちの第二代京都府知事)と京舞井上流三世家元・井上八千代の発案で行われた舞踊会が始まりです。
 
 2023年、会場である祇園甲部歌舞練場(国の登録有形文化財)が令和の大改修を終えて7年ぶりに復活しました。戦中・戦後の6年間中断していたこともあり、今年は150回目を迎える節目の年としても注目を集めています。
 
「ヨーイヤサー」のきらびやかなかけ声とともに始まり、四季折々の美しい名所や物語を背景とした演目を舞うのが「都をどり」の特徴。フィナーレの、総勢約60人が一堂に会する第八景“総おどり”は圧巻です。
 
 24年の演題は、「都をどり百五十回源氏物語舞扇」。定番となっている第一景「置歌(おきうた)」と第八景「歌舞練場桜揃(さくらぞろえ)」以外の演目は、光源氏と夕顔の出会いを描いた第三景「夕顔垣根納涼」、光源氏の正妻・葵の上が愛人の六条御息所の生霊に憑(と)りつかれる第四景「葵上」など、今年の大河ドラマで話題の紫式部が執筆した『源氏物語』をメインに構成されています。
 
 舞台そのものも見応えがありますが、公演前にもお楽しみが。茶券付きの一等観覧券を求めれば、舞妓・芸妓による優雅なお点前を眺めながら抹茶と茶菓子をいただくことができます。椅子に座り、テーブルで抹茶と茶菓子を楽しむことができるという、気軽な立礼(りゅうれい)式のお茶席なので、茶道の心得がなくても心配無用。

 お菓子を載せた陶器の小皿は、八坂神社の門前茶屋が発祥であることにちなんだ五つの団子をあしらったデザインで、記念に持ち帰ることができます。団子の色は白、赤、緑、茶、青など多色展開なので、毎年この小皿を1枚ずつ集め、思い出を重ねていく人も。おみやげコーナーでは、実際に過去の舞台で使われていた衣装の生地で作られた、オリジナル小物や限定デザインのお菓子も入手できますよ。

都をどり舞台正面だけでなく、両サイドでも臨場感あふれる踊りや生演奏を見ることができる(左/第一景「置歌」)、フィナーレを飾る“総おどり”(右) 写真提供:祇園甲部歌舞会
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