図表33(a)に、回転ドアを上から見た概略図を示します。ここでは、回転軸Oの周りに4枚のとても重いドアが角度90度おきに付けられているとします。

図表33同書より
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 それぞれのドアには、Oから遠い位置Aと近い位置Bに、ドアを手で押すためのプレートが設置されているとします。

 できるだけ楽をして(弱い力で)ドアを回転させて通り抜けたい場合、AとBのどちらを押して回転ドアを回すのが良いでしょうか?

楽に回転させるにはどうしたらいいか
力のモーメント=うでの長さ×力

 私ならAを手で押して(力を与えて)、回転ドアを左回りに回して通り抜けます。Bを押すよりもAを押した方が、弱い力で済み、楽だからです。

 さらに図表33(b)をご覧ください。Aを押して、ドアに左回りの回転を与える場合、皆さんなら図中の(1)、(2)、(3)のうちどの方向に力を作用させますか?

 私なら(2)の方向に力を加えて、ドアを回転させます。ドアに対して90度の角度に力を加えた方がやはり楽だからです。ドアを回転させるには、力の方向をドアに対して直角にした方が、弱い力で済むからです。(1)の方向は、(2)の方向より強い力が必要です。(3)の方向に力をかけても、ドアは回転しそうにないですよね。

 結局、回転ドアを楽して(弱い力で)回転させるには、回転軸から遠い位置に、ドアに対して垂直に力を作用させた方が良いことがわかります。これが、物体を回転させようとする力のはたらき、力のモーメントです。

書影『クレーンゲームで学ぶ物理学』(集英社インターナショナル新書)『クレーンゲームで学ぶ物理学』(インターナショナル新書)
小山佳一 著

 図表33(b)の状態で、力が(2)の向きに作用しているとき、回転軸Oと力点Aとの距離を、高校の物理の教科書では「うでの長さ」ともいいます。そして、物体を回転させようとするはたらきである力のモーメントは、(うでの長さ)×(力)で表すことができます。回転ドアだけではなく、オフィスや一般家庭にある普通のドアも同じ仕組みですね。ドアノブがドアの回転軸である蝶番から遠い位置(うでの長い位置)にあるのも、理にかなっているのです。

 さて、話をプライズ(大きさのある物体)の転倒に戻しましょう。図表32で示したプライズの転倒も、回転運動の一つです。プライズの回転軸(1つの角)から、うでの長い位置に対し、うでの方向と垂直に力をかけることができれば、容易に(弱い力で)プライズを転倒させることができます。力のモーメントの観点からは、図中の力点Oから距離の遠いPPフックのCの位置にシャベルを引っかけて外力FCを作用させた方が、Oを中心とする回転運動に有利であるといえますね。