ここで、どうしてもプライズをゲットしたいのなら、UFOメカのアームについているシャベルでプライズの上部を押し、下向きの力を作用させる作戦を選択せざるを得ません。

 ですがこの選択も、実は厳しいものになります(経験済みです)。

てこの原理だけを考えても
相手の思うツボになってしまう

 もう一度図表36を確認しましょう(特に重心の位置!)。

図表36同書より 拡大画像表示

 プライズ(1)の落とし口付近のAに、UFOメカのアーム先端についているシャベルを用いて下向きの力を作用させても、Aは支点Oの鉛直線から遠いため、プライズ(1)はそれほど傾きません。プライズ(1)の重心GはO上の鉛直線を左側に越えることはなく、左側に転倒せず、ちょっとくらい傾いても、また元の安定な位置(初期の状態)に戻ることが予想されるのです。

 ここでよく状況を検討しないと、「プライズ(1)のOに近いBに、シャベルで下向きの力を与えれば、プライズ(1)が大きく傾き、GがO上の鉛直線を越えて、Oを支点に転倒するかも」と思って100円硬貨をゲーム機に投入してしまいます。てこの原理だけで考えて、「多分、いい押しどころがあるんじゃないか?」と思ってしまうのです(私のことです)。

書影『クレーンゲームで学ぶ物理学』(集英社インターナショナル新書)『クレーンゲームで学ぶ物理学』(インターナショナル新書)
小山佳一 著

 これがトラップ、相手の思うツボ。ある意味「やられた~」と笑ってしまう設定です。私など深く物理を考えずにプレイして、何度、苦笑いしたことか。

 よくよく考えましょう。プライズ(1)のOに近いBに、シャベルで下向きの力を与えて、プライズ(1)が大きく傾いたとき、プライズ(1)の左端が、落とし口前のパーティションEとプライズ(2)の間に来てしまったら?そう、プライズ(1)は落とし口には落ちず、フィールドのD付近に立ってしまうことが予想されるのです。

 予想されるというよりは、私、やっちまいました。物理から検討すべきこれらのリスクの、検討を忘れていたのです。クレーンゲーム機の前に立つと冷静でいることは、難しいですね。